4月の金融政策決定会合とは逆相似形

日銀が7月31日の金融政策決定会合で、利上げと量的引き締めに同時に着手することを決めました。これを受けて金融市場は大きく動きました。ドル円相場は約2円飛んで150円を割り込む円高となりました。円高に振れた最大の要因は、植田総裁のかなりタカ派(*1)だったニュアンスです。

植田総裁のニュアンスは過去と比べると理解しやすいと思います。4月26日の政策決定会合の後の記者会見で植田総裁は、相当にハト派(*2)で円安容認とも取れる発言をしました。結果的に160円台へと円安が加速しました。4月29日には海外市場で財務省・日銀は為替介入して円安を阻止する行動に出ました。そして、連休が明けた5月7日に植田総裁は官邸で岸田総理と会見しました。市場では、植田総裁の発言が円安を誘発したことについて、クレームがついたとの憶測が飛び交いました。

今回の日銀の政策決定会合の内容と植田総裁のニュアンスは、4月と逆相似形と位置づけられます。というのも、実物経済の弱さや物価の落ち着きを勘案すれば、このタイミングでの金融引き締めは、目的が円安是正だと受け止める向きが多いからです。そして現に4月のミスを挽回するかのように円高になりました。

*1:タカ派=各国中央銀行の金融政策決定に関わる幹部のうち、物価の安定を重視し金融引き締め的な政策を支持する人のことを指す
*2:ハト派=景気刺激に前向きで金融緩和的な政策を支持する傾向がある人のことをハト派と呼ぶ。

 

政治が円高に向け金融緩和を要求

金融政策に対する政治圧力は、通例なら金融緩和の要求です。一般論として、金融緩和=低金利=産業振興=好景気、金融引き締め=高金利=企業にとって不利=不況、となりやすいからです。しかし、7月に入り河野デジタル大臣や茂木自民党幹事長など政治サイドが金融引き締めを要求しました。これは異例なことです。政治にとって大事なことは支持率の元にある庶民生活です。庶民生活が円安によるインフレで大変な状況にあるなら、では円高にして負担を軽減しましょう、というのが円高要求の背景にあると考えられます。

短期的な市場の変動はともかく、問題は日銀の金融政策が長期的な日本経済の繁栄に資するかどうかです。この点について岸田総理は、「政府と日銀はデフレ型経済から新しい成長型経済への30年ぶりの移行を成し遂げるという共通の認識に立って、密接に連携している。本日の決定もこうした認識に沿って行われたものであると考えている」と理解を示しました。

 

金融政策の次は経済対策

経済史の真実は、経済政策が庶民生活を優先すると後に経済は停滞し、産業振興を優先すると後に経済は繁栄することを示しています。日本経済は、人口減少、設備投資意欲の減退、勤労意欲の停滞など、構造的な問題を抱えています。こうした問題を打破するには、日銀が金融緩和を長期間維持する「高圧経済」が実現可能な道筋だと見られていました。

今回の日銀の金融引き締めでは、物価を加味した実質金利はまだ低く据え置かれています。その意味では「高圧経済」は活きています。秋には追加の経済対策が実施される予定です。円安是正の負担を金融政策だけに負わせるのは問題があります。次は追加の経済対策が、対内直接投資の増加など産業競争力を強化するものになるかどうかが注目点です。産業競争力が強化されれば、自然に円安は是正されます。

今回、植田総裁のニュアンスを受けて円高が進んだのは、まだ相当に金融引き締めが続くという期待を市場が織り込んだからです。一方、早くも市場では来年の春闘は今年の反動が出る、というやや悲観的な見方も出ています。市場の期待に反して金融引き締めが遅れると、足元とは正反対の円安圧力が強まるリスクがあります。

 

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