動き出すアクティビスト

こうした動きに海外の投資家たちは敏感に反応しています。2023年度はこうした東証の要請だけでなく、日本銀行総裁が交代し、改めて金融緩和政策継続の意思が確認されたのですから、自国の利上げに苦しむ投資家からすれば、日本株市場が宝の山に見えたはずです。

記録に残るものとして、今回がおそらく3度目の大規模な外国人の日本株買いになるのではないかと私は睨んでいます。1度目が2005年夏から始まった、郵政解散をきっかけとした規制緩和期待の外国人買い、2度目が2012年の暮れから始まったアベノミクス相場です。正確な数字を捕捉することはむずかしいのですが、どちらも累積投資金額は10兆円以上に及ぶはずです。

おそらく今回は、東京証券取引所の呼び掛けに呼応する形でアクティビストと呼ばれる物言う株主がこぞって日本株に参入してきたものと推察されます。彼らは、ある会社の株式を一定以上保有し、従来の典型的な物言わぬ投資家と異なり、投資した会社の経営陣へ積極的に提言を行なう投資家です。今回の東京証券取引所の働き掛けも、さらにはその後に唐突に岸田総理から発表された、日本の資産運用業の強化へ海外からの参入を促進しようとする政策も、最終的に行きつくところは、〝株主が働き掛けることで日本企業を再生させる〟という試みであるように私には思えます。

日本株投資のロードマップ

以上で、大体のここからの日本株を取り巻く環境が描けたかと思います。もちろん、景気の循環はやがてまた訪れますが、いまはその前に確実に起こるであろうと予想される現象を押さえて戦略を立てるのが先決です。

まず、上述した外国人投資家の買いは、少なくとも2024年の株主総会の時期までは続くことになるでしょう。この間に、日本の企業が増配や自社株買いの実施に積極的に取り組めば、さらなる買いが期待されます。

ただし、この流れには上限があることをあらかじめ理解しておかなければなりません。

そもそもの発端が、低すぎるPBRの修正にあるのですから、これが適正とされる水準までは株価が買われてもおかしくありません。とはいえ、適正とする水準を見つけることはむずかしく、たとえば直近の実績ベースPBRで見ると、米国は4・4倍であるのに対し、欧州の平均は1・9倍、英国は1・7倍と推計されています。さらに、こうした数字は時代により、景気循環の位置により変わってくるので、一概に一定の水準を決めるのは土台無理な話です。

それでも日本株が先進国のなかでは際立って割安であることは間違いありませんので、それこそ日経平均株価がバブル時の高値を超えてくるまでは、こうした割安感の是正は継続していくものと考えておいてよいでしょう。

次に、日本銀行の金融政策の正常化の動きですが、こちらは2024年に大きな転換期を迎えることになるでしょう。市場に大きな影響を及ぼすのは、まずはマイナス金利解除の時期になりますが、これについては2024年の4月から9月までのどこかではないかとみています。この動きに対する市場反応は、このときまでに日本銀行からあらかじめ詳しいフォワードガイダンスが行なわれていれば、混乱は銀行株にのみ限定された形となるでしょう。マイナス金利の解除だけで日本の市場金利全体が大きく変動することは考えられず、懸念されている10年物利回りの水準も、0・7~1・0%という現在とあまり変わらないところに落ち着くのではないかとみています。

●第3回は【お手本は“投資の神様”バフェット? インフレ時代は短期トレードより長期投資が有利といえるワケ】です。(8月7日に配信予定)。

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