東京エレクトロン 代理店から製造業へ

東京エレクトロン
売上高:連結2兆38億500万円(2022年) 従業員数:連結1万7204人

東京エレクトロン(日本)は半導体製造装置メーカーとして世界シェア第3~4位、日本メーカーの中では断トツでトップの地位を占めています。どちらかといえば、アメリカのAMATに似て、多くの装置分野をカバーしていて、コーター・デベロッパー(感光剤の塗布・現像を行なう装置)などでは世界トップメーカーの地位にあります。

東京エレクトロンの企業としての特徴は、「代理店→製造業」と転身した、実に稀有な成功例をもつ企業だという点です。

もともと東京エレクトロンは、総合商社(日商岩井、現在の双日)出身の久保徳雄氏と小高敏夫氏が、TBSの全面的支援のもと、たった6名の社員とわずか500万円の資本金で「東京エレクトロン研究所」としてスタートしたベンチャー企業でした。当初はVTRやカーラジオなどの輸出とエレクトロニクス機器関係の輸入などの業務を手掛けていました。

そして1970年には半導体製造装置の国産化と自社生産体制を確立し、1978年に現在の東京エレクトロン株式会社に商号を変更、1980年には上場を果たしました。

わずか60年の間に超優良な大企業に成長できたのは、創業者や歴代の経営者、さらに社員として加わった従業員の熱意やベンチャー精神の賜物に他ならず、同時に大株主としてTBSが果たしてきた役割に負うところも少なくなかったでしょう。

こうして見てくると、東京エレクトロンは、当初はエレクトロニクス機器の代理店という形でスタートしながらも、その代理店ビジネスの中でエレクトロニクスや半導体を習得し、さらにユーザーとの触れ合いの中で得た経験やノウハウをモノづくりに生かしながら「代理店」から「製造業」への業態転換をうまく成し遂げ得た例といえるでしょう。

また東京エレクトロンは、外部に対し、アメリカなどの外国企業に近いオープンな姿勢や雰囲気をもった会社で、新しいモノには積極的に臨み、働きかけ、そこから何かを得ようとする傾向が強い会社と見受けられます。

それは、ベルギーのルーベン市に本部を置く「IMEC」(Interuniversity Microelectronics
Center:国際研究機関)やIBMが主導するニューヨーク州アルバニーの最先端半導体研究開発拠点「Albany Nano Tech Complex」に、日本企業としていち早く参加したことにも現れています。

SUMCO 世界第2位のウエハー・メーカー

SUMCO
売上高:4410億8300万円(2022年) 従業員数:連結8469人

SUMCO(日本)は信越化学工業に次ぐ、世界第2位のシリコンウエハー・メーカーです。

1937年に大阪特殊製鉄所としてスタートし、その後何度も合併などを繰り返してきました。1952年には大阪チタニウム製造株式会社、1993年には住友シチックス株式会社、1998年には住友金属工業株式会社のシチックス事業本部、2002年には三菱マテリアル・シリコン株式会社と合併して三菱住友シリコン株式会社に、2005年には株式会社SUMCOに商号を変更し、現在に至っています。さらに2006年にはコマツ電子金属株式会社を公開買い付けで子会社化しました。

筆者は現役時代、シリコンウエハーに関していうと、信越化学工業、SUMCO(大阪チタニウム製造の時代から)、コマツ電子金属、さらに一時期は新日鉄シリコン(2003年にドイツの会社に売却される)の各社とそれぞれ付き合いがありました。信越化学は当初からあまり変わらない感じでしたが、他のメーカーは互いに競合する過程でSUMCOが勝ち残った印象をもっています。

余談になりますが、新日鉄が新日鉄シリコンという会社を興し、シリコンウエハーの製造に進出した当時、新日鉄シリコンの担当者などと話をしていると、「鉄で冠たる地位を築いてきた我々に、シリコンができないわけがない」との気概(自負)のようなものを感じたことがありました。

この例に限らず、いくら超大企業であり、多数の優秀な技術者・人材を擁し、ある特定の技術分野で世界一と優れていたとしても、業態の異なるビジネスに進出して成功するのは至難の業と感じさせられるのです。

2023年7月には、政府(経済産業省)が我が国の半導体産業の復権に向けて打ち出した「半導体戦略」の中で、半導体素材産業強化策の一環として、SUMCOの新工場へ最大750億円の支援を行なうと発表されたのは記憶に新しいところです。

この政府支援により、現在シリコンウエハー・メーカーとして、世界トップの信越化学工業としのぎを削っているSUMCOの状況に何か変化が生じるのでしょうか。SUMCOはシリコンウエハー単品の企業であるのに対し、信越化学工業は総合化学メーカーの大手であることが、政府のSUMCO支援に何か影響があったのか、興味を惹かれます。

教養としての「半導体」

 

著書 菊地正典

出版社 日本実業出版社

定価 2,200円(税込)