◆売れ筋の中心は「米国グロース株」「半導体」への集中投資

大手証券の店頭では、投信の取り扱いにあたって顧客の収益最大化を目的に、自社の市場見通しも参照して「今後、価格上昇が期待できるファンド」を厳選して顧客提案する傾向が強い。投資アドバイスを求める顧客のニーズは、「自身の投資目的にかなった商品を紹介してほしい」というのが基本だが、そのニーズの底流には「もうけたい」という思いがある。証券会社が積極的に提案してきた商品で、損失が出た場合は、顧客の信頼を失うことにもつながりかねない。その点では、証券会社の店頭販売に限定した売れ筋リストが出回っていれば、外部の投資家にとって参考になるのだが、残念ながら、そのようなランキングの公表はない。公表されているランキングは、顧客が自己判断で注文するネット販売実績も含めた「総合ランキング」や「オンライン取引ランキング」になっている。

また、大手証券にはそれぞれ系列、または、縁の深い投信運用会社が存在している。このため、市場で人気のある投信については、グループの投信会社が設定・運用している同種の商品を取り扱う傾向が強い。したがって、特定の投信については、特定の証券会社でのみ取り扱っているというケースもある。外資系の運用会社の商品には、グループや系列を超えて複数の証券会社が取り扱う「定番商品化」している商品もあり、複数の証券会社で取り扱っている商品はランキングにおいて上位になりやすい傾向がある。

ここ数年の傾向として顕著なのは、「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信」に代表される米国グロース株(成長株)を主たる投資対象にした投信の人気だ。これは、インデックスファンドとしての「S&P500」の人気にも通じ、ファンド名に成長株と入っていなくても「ティー・ロウ・プライス 米国オールキャップ株式ファンド」でも市場環境を捉えて実質的にグロース株ファンドの性格の強いポートフォリオになっているものもある。具体的には、昨年話題となった「マグニフィセント・セブン」と言われる銘柄群(グーグル<アルファベット>、アマゾン、フェイスブック<メタ・プラットフォームズ>、アップル、マイクロソフト、エヌビディア、テスラ)が組み入れ銘柄上位を占めるようなファンドだ。

また、「マグニフィセント・セブン」の中でも、生成AI向け半導体を設計するエヌビディアの株価の上昇は際立ち、エヌビディアに刺激されて半導体株全般に注目度が高まっている。売れ筋ランキングの中では、同率第4位の「半導体関連 世界株式戦略ファンド 愛称:半導体革命」、同率第9位の「野村世界業種別投資シリーズ(世界半導体株投資)」などが代表的な半導体関連株ファンドだ。

このように米国株を軸にしたファンドが現在の大手証券の売れ筋になっている。それが同時に、米グロース株への投資の行き過ぎを調整するという対抗軸(分散投資の相手先)として意識されるバリュー株(割安株)への投資も含めたオールラウンド(全天候型)の運用をめざす「フィデリティ・世界割安成長株投信 Bコース(為替ヘッジなし) 愛称:テンバガー・ハンター」や「インベスコ 世界厳選株式オープン<為替ヘッジなし>(毎月決算型) 愛称:世界のベスト」、「キャピタル世界株式ファンド」などといった定番商品の人気を支えている。エヌビディアが引っ張って米国の大型ハイテク株人気の追い風に乗りながら、そのハイテク株が下落に転じた時のカバーにバリュー株の側面ももつオールラウンダーを併せ持つという大きな投資戦略がみえる。