インフレによる物価高騰のなか、現金の資産価値は目減りします。預貯金以外で何かしらの資産運用をしないと損をする状態ですが、その投資先は吟味する必要があります。
インフレに強い投資先はどこでしょうか?
投資の最前線で30年以上のキャリアを持つ、マネックス証券チーフ・ストラテジストの広木隆氏は高配当株への投資を提案しています。今回は、増配する企業が増えている背景に迫ります。(全3回の2回目)
●第1 回:インフレに強い資産。株式・金・不動産のなかで、まずは株式を検討するべき理由
※本稿は、広木隆著『利回り5%配当生活』(かんき出版)の一部を抜粋・再編集したものです。
「配当」を重視する企業側の思惑
これまで日本の株式市場では、ほとんど配当が重視されませんでした。なぜなら、配当の額そのものが少なかったからです。
理由はいろいろ考えられます。
まず、日本の高度経済成長による影響です。もちろん、高度経済成長が悪いと言っているのではありません。ただ、1950年代半ばから1980年代にかけての日本は、戦後の焼け野原から世界第2位の経済大国にのし上がったことからもお分かりのように、世界にも類を見ない、高い経済成長を実現してきました。
その間、日本の企業もものすごい勢いで成長していきました。このように高い成長が続くような企業は、むしろ配当をせずに、さまざまな投資をすることによって、より成長しようとします。配当はしないけれども、企業が成長する分だけ株価が大きく値上がりするので、キャピタルゲインで投資家に報いると言う考え方です。
株主軽視の考えが定着
それに加えて、コーポレートガバナンスという考え方が、日本企業にはほとんど浸透していなかったことも、配当が少なかった理由のひとつでしょう。本来、企業は株主のものですが、日本の場合、株主軽視の考え方が長いこと定着していました。
利益がたくさんあれば、それを株主に還元するべきなのですが、日本企業の場合、なぜかその利益でもって豪華な保養施設を造って社員の余暇に供するとか、社長以下の経営陣が、専属の秘書付きで豪華な役員室を持ち、移動はすべて社用車で、といった時代が長く続いたのです。2023年にも、ある上場企業において前社長と前々社長による会社経費の私的流用が発覚したばかりです。
こうしたことに対して株主の監視の目が届かなかったのは、お互いの利害関係で結びついた銀行や保険会社、あるいは系列企業の間で、お互いの株式を持ち合っていたからです。「まあまあ、お互い様なんだから、何も言わないってことにしましょう」という話です。
こうした悪しき慣習が蔓延していたため、多くの日本企業は株主を軽視して、配当を増やさないまま、内部留保を積み上げてきました。
しかし、もうそのようなことを言っていられない時代になってきました。