中国政府の金“爆買い”も価格に多大な影響を及ぼしている
インフレという、金が買われやすい環境になるのと同時に、もうひとつ金価格の上昇に拍車をかけている大きな要因があります。
それは、中国による金買いです。
現在、中国は政府による金の保有額を、ものすごい勢いで増やし始めています。具体的には中国人民銀行による金買いで、これが世界の中央銀行のなかでも、飛びぬけているのです。2024年3月末時点で、中国人民銀行が保有している金の総量は17カ月連続で前月を超え、約2262トンになりました。中国人民銀行は、この17カ月間で金の保有量を16%も増やしたことになります。
ワールド・ゴールド・カウンシルの調査によると、2023年中に各国の中央銀行が買い付けた金の純購入量は1037トンでしたが、中国はその約2割を占めていて、データで確認できる1977年以降で最大の純購入になったということです。
BRICS諸国を中心とする新通貨構想の存在も見逃せない
なぜ、中国はここまで急に金を買おうとしているのでしょうか。最近、ニュースで報じられる機会が増えてきたように、BRICS諸国が中心となった新通貨構想があるからです。
これは2023年8月に、南アフリカのヨハネスブルグで開催された、BRICSのガバナンスや文化交流のセミナーにおいて、ブラジル出身のエコノミストで国際通貨基金の理事も務めたパウロ・ノゲイラ・バチスタ・ジュニア氏が、国際取引用のデジタル通貨として、新通貨を発行する必要性を説いたことに端を発しています。
なぜ新通貨が必要なのかというと、さまざまな国際決済取引において、現時点では圧倒的に米ドルが決済通貨として用いられており、こうした米ドルの特権的地位を容認し続けていると、米ドルの信認が崩れた時、世界中で経済や金融の大混乱が生じることを懸念してのこと、と考えられています。
しかし、だからといってそう簡単に新通貨を発行できるわけではありません。通貨を発行するだけなら誰でもできますが、大事なことは、それを世界中のさまざまな貿易取引の決済に用いられるようにすることです。
そのためには、誰もがその新通貨を保有したいと思わせるだけの信頼感を持たせる必要がありますが、単なる紙切れにそれだけの信頼感を持たせるとなると、なかなか一筋縄ではいきません。信頼されるに足るだけの担保が必要になります。その担保を金に求めている、という話があります。中国がこの17カ月間で金の保有量を16%も増やしたと前述しましたが、それは中国に限った話ではなく、他の国でも同じです。
たとえばインドの金保有量は、2022年2月から2024年2月までの2年間で、758トンから817トンに7.78%増ですし、ロシアは2298.53トンから2329.63トンまで1.35%増、となっています。ブラジルだけが129.65トンで横ばいですが、それ以外のBRICS国は、国ごとのペースの違いはあるものの、着実に金の保有量を増やしているのです。