次に移民について触れられているのは、個人消費に関する部分です。一部の参加者は、移民の増加が個人消費支出の伸びを押し上げる可能性が高く、住宅需要にも寄与していると指摘しています。

 

さらに、低所得および中所得世帯の財政状況についても言及されています。私の理解では、移民の多くがこの所得層に当てはまると思われます。高所得者として移民する人は少数派でしょう。彼らの財政悪化の証拠として、クレジットカードの残高増加やBuy Now Pay Laterプログラムの利用拡大、延滞率(デリンクエンシーレイト)の上昇などが指摘されています。

つまり、議事要旨を読む限り、移民の増加が低所得・中所得層の消費を押し上げている一方で、彼らの債務残高増加や延滞率上昇にもつながっているようです。いずれにせよ、個人消費を後押ししている主役は移民ではないかということです。

労働市場に関する議論でも、移民についてインパクトのあるメッセージがされています。ほとんどの参加者は、過去1年間の労働供給の増加は、労働参加率の上昇と移民の増加によるものだと指摘しています。つまり、移民の流入により労働力人口が押し上げられているということです。

 

これは、高度経済成長期の日本や経済発展期の中国など、新興国でよく見られるモデルに似ています。地方から都市部に大量の若い労働力が流入することで、安価な賃金で成長を支えるというものです。米国でも数年間で移民が増加し、労働供給が拡大しています。その結果、賃金の上昇は抑えられているようです。

米国経済は現在インフレ状態にあり、人手不足が指摘されています。本来ならばもっと賃金上昇圧力が高まるはずですが、移民の存在によってインフレが抑制されている側面があるのです。もし移民がいなければ、賃金はもっと上昇していたかもしれません。

最後に、移民に関する議論は議事要旨の結論部分にも登場します。多くの参加者は、昨今の移民の動向が労働力の供給、雇用全体、そして経済活動全般の進化にどのような影響を及ぼすのか、評価することが難しいと述べています。

 

現在、米国景気は堅調で、そのままにしておくとインフレが加速してしまう。しかし、移民による労働供給の増加が賃金上昇とインフレを抑制している面があるのです。その一方で、移民たちは必死に働いて、マイホーム購入などの夢を追いかけ、消費活動を活発化させています。つまり、移民の存在が諸刃の剣のような形で経済に作用しているのです。

後編では、統計情報を用いて移民が米国経済に与える影響とそのリスクを読み解いていきます。

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岡崎良介氏 金融ストラテジスト

1983年慶応義塾大学経済学部卒、伊藤忠商事に入社後、米国勤務を経て87年野村投信(現・野村アセットマネジメント)入社、ファンドマネジャーとなる。93年バンカーストラスト信託銀行(現・ドイチェ・アセット・マネジメント)入社、運用担当常務として年金・投信・ヘッジファンドなどの運用に長く携わる。2004年フィスコ・アセットマネジメント(現・PayPayアセットマネジメント)の設立に運用担当最高責任者(CIO)として参画。2012年、独立。2013年IFA法人GAIAの投資政策委員会メンバー就任、2021年ピクテ投信投資顧問(現・ピクテ・ジャパン)客員フェロー就任。