米国株の影響度はやはり“大”。米国経済のこの先は…
――日本株の好調が続くのか否か。そこに、米国の動向はやはり大きな影響がありますか。
もちろん、あります。米国経済の減速が意識されるとドルが売られ円高傾向になり、日本株にはマイナスに作用します。
現状、米国経済は堅調で消費も強い。ただ、いくつかリスクの芽があります。消費の面で言うと、クレジットカードの延滞率が上がっていること。また、クレジットカードを持つことのできない信用力の低い層に「BNPL(Buy Now Pay Later)」という後払い決済が急拡大しており、これも不安材料です。
さらに企業の債務の借り換え需要が、今年度だけで6000億ドル(日本円で約90兆円)あるとされています。コロナショック後に極めて低金利で借りたお金を、現在の高い金利に借り換えなければならない。利息負担が一気に上がります。そうすると設備投資を控えるなど、景気が大きくスローダウンする可能性もあります。リーマン・ショックの再来というほど悪い状態には至らないでしょうが、景気減速の芽はあちこちに存在するのが実態です。
――こうした米国景気など外的な要因に過度に振り回されず、日本株が評価され、好調であり続けるためには何が必要なのでしょうか。
日本企業の収益力を高める。ROE(株主資本利益率)を改善する。これに尽きます。ROEを向上させるには、数式通りではあるのですが、分母を減らす、あるいは分子を増やす。これしかありません。
分母を減らすには自社株を買う、増配をするといったことになります。これらは即効性がありますが、一時的であり、限界もあります。
一方、分子を増やす、つまり純利益を伸ばすのは簡単ではありません。R&D(研究開発)や人材開発、M&A(企業の合併・買収)といった前向きな投資が必要で、時間もかかります。しかし長い目で見ると、この両方のセットで取り組む必要があります。
――ROEといえば……東京証券取引所が、2023 年3 月「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」と題された資料を、2024年1月にはそれに対応し、情報開示している企業の一覧を公表して、どちらも話題になりました。こうした施策は、日本株の株価に影響がありますか。
いわゆる「東証改革」は、株価にも影響を及ぼすと考えています。改善要請に応える企業も着実に増えてきていますね。これからも続々と出てくると思います。「資本コストや株価を意識した経営」を行うことも、投資家に「開示」することも、“意思と能力”の問題ですから、それをする企業としない企業の差は開く一方だと思います。経営も株価も今後、二極化が進んでいくのではないでしょうか。その意味では、運用会社のアクティブ・マネジャーにとっては今後の日本株はやりがいのある状況だと思います。
――しかし、一般投資家にとってはアクティブ・ファンドを選ぶのは大変ですね。インデックス・ファンドであっても多種多様ですので、投信など銘柄選択が重要になってくると感じます。
その通りで、投信もリターンとリスクの源泉の分散がとても大事です。単に商品を分散するだけでなく、内容まで深く理解して、本当の意味での分散を目指すべきでしょう。
一般の投資家にとっては長期投資が肝心です。最低でも10年以上、理想的には20年以上を投資期間としてほしいところです。
毎月定額の積み立て投資の元本割れリスクは5年後で約27%、10年後でも約17%ありますが、20年後だと約5%にまで下がります(リターン年率6%、リスク年率18%の場合)。年利6%の投信を毎月1万円ずつ買い増ししていくと(元本240万円)、20年後、平均では456万円を受け取れる計算です。こうした点も頭に入れながら、株式投資に向き合ってほしいと思います。
――本日は、日本株の現状と今後、さらには投資家にとって留意すべきポイントまでご説明いただき、ありがとうございました。
ニッセイ基礎研究所
金融研究部 主席研究員 チーフ株式ストラテジスト
井出 真吾氏
1993年東京工業大学卒業、日本生命保険入社。1999年ニッセイ基礎研究所、2023年より現職。専門は株式市場、株式投資、マクロ経済、資産形成。新聞・テレビ等メディアへの登場も多数。著書に「40代から始める 攻めと守りの資産形成」「本音の株式投資」、「株式投資 長期上昇の波に乗れ!」(いずれも日本経済新聞出版社)等。