買収直後に経営悪化 4000億円の巨額損失を計上
トール買収で日本郵政は大きく成長するはずでした。しかし目算は早くも崩れます。
買収後で最初の決算である2015年6月期において、トールのEBIT(利払い前・税引き前利益)は前期比15%減少し、翌期はさらに30%悪化しました。資源価格の下落と中国経済および豪州経済の停滞が主な原因です。苦戦は止まらず、EBITは2017年6月期に2014年6月期の6分の1にまで減少しています。
【豪トールのEBIT(2014年6月期~2017年6月期)】
・2014年6月期:4億4400万豪ドル
・2015年6月期:3億7900万豪ドル
・2016年6月期:2億6600万豪ドル
・2017年6月期:6900万豪ドル
日本郵政は業績の悪化を受けトールの価値を再評価した結果、2017年3月期に大幅な減損を強いられました。買収に伴って計上していたのれんは、ほぼ全額が減損の対象となります。この処理で4000億円以上の特別損失が発生し、日本郵政は最終赤字に転落しました。
【日本郵政ののれん(2015年3月期~2017年3月期)】
日本郵政はトールを立て直すため、赤字が続いていたエクスプレス事業(※)を売却し、事業ポートフォリオを3PL事業とフォワーディング事業(※)に絞りました。この売却でさらに674億円の特別損失を計上しています(2021年3月期)。
※エクスプレス事業:先に物流網を構築して行うネットワーク型の物流。
※フォワーディング事業:船や飛行機など複数の輸送手段を手配して輸送する事業。輸送手段は自社で保有せず外部に委託する。
不採算事業から撤退したこともあり、トールが占める国際物流事業は2022年3月期に2期ぶりの黒字を確保しました。ただし利益額は212億円にとどまっており、6200億円もの買収額に見合うとはいえません。また翌期は再び赤字に陥っています。2016年3月期~2023年3月期の利益の累計は170億円と厳しい状況です。
【国際物流事業の経常利益(2016年3月期~2023年3月期)】