「全国民の義務!」くらいに考えてぜひ作成を

未成年者のいる世代だけでなく、再婚して前妻との間に子どもがいる場合にも、遺言書は必須です。遺言書がなければ、いろんな感情を持った前妻の子どもと後妻が、遺産分けの話をしなければなりません。ちょっと想像しただけでも、怖いですよね……。

こんな例もあります。前妻に子どもが2人、後妻にも子どもが2人いるご主人が亡くなられました。後妻の陽子さん(仮名・65歳)が相談に来られたのですが、憔悴しきっていました。

何度となくご主人に「遺言書を書いて」とお願いしたけれど、そのたびに「困らないようにしている!」と声を荒らげられ、それ以上言えなかったとのこと。子どもたち2人には、父親が再婚で、異母兄弟がいることも伝えていなかった中でのことです。

「困らないようにしている」という根拠を探そうと、部屋中探したところ、前妻との覚書が出てきました。そこには「離婚につき財産分与をしたので、自分の相続の際には2人の子どもたちに一切の請求をさせない」と書かれており、前妻の署名押印がされています。

当時のことはもはや誰にも分かりませんが、亡くなったご主人はこれで全てが解決できると思っていたのでしょう。でもこんな私文書、何の役にも立ちません。当然に前妻のお子さん2人にも、相続の権利はあるのです。結局のところ、よく言われるところの“争族”となってしまいました。

「困らないようにしているって言ったのに」

奥さんの落胆ぶりは、大変なものでした。2人の子どもたちも、自分たちが異母兄弟の存在を知っていたら、何が何でも父親に遺言書を書いてもらうようにしたのに……と悔しがっていました。

このようにきちんと遺言書を残していないと、さまざまな問題が生じるのです。亡くなってから、家族に恨まれるのは、きっとあの世でも心苦しいでしょう。だからこそ、遺言書を残しておくのは、やっぱり全国民の義務なのです。

因みに公正証書の遺言書は、全国の公証役場で作ることができます。自身の住民登録地とか何か制限がある訳ではありません。長期バカンス中に、「作ろう!」と思ったら、わざわざ戻ってこなくてもその地でできます。

しかも公証役場に行けない場合には、公証人は出張して来てくれます。ただしこの場合には、住民登録地管轄の公証役場になるのでご容赦ください。

面倒だとか、まだ早いとか、自分には必要ないとか、いろいろ言い訳せずに、遺された方への愛情として、遺言書はぜひ作成して欲しいのです。

そして長生きすれば、財産や状況も変わるでしょうから、めでたくまた作成し直せばいいのです。そうしておけば、亡くなった後「ちゃんと考えてくれた」と遺された家族から、感謝されること間違いなしです!

『あなたが独りで倒れて困ること30』

太田垣章子 著
発行所 ポプラ社
定価 1,760円(税込)