投資の出発点を「年金の不足分を埋める」に設定する
芳江:とはいえ、投資ってなんか怖くて今までやったことがないんですよね。
光男:僕らの世代はバブルを経験しているでしょう。あの当時、株で一夜にして数千万円がパーになったとか、破産したとか、そういう話がいくらでもありました。中には「株とギャンブルだけには手を出すなというのが我が家の家訓だ」とか言う人もいて……。
芳江:もうひとつ、投資をするなら、ちゃんと勉強をしないといけないでしょう。それが正直、面倒くさくて(笑)。自分たちには向かないんじゃないかって……。
CFP:はい、確かに知識なしに始めるのは危険だと思います。定年になった方が、これからは時間もあるからと、退職金を元に株式投資を始めて、失敗してしまうということが現実にあります。
光男:ああっ、まさにそういう人が身近にいます! 会社の先輩だけど、退職金をFX ※1につぎこんで大失敗しちゃったんです。その人は奥さんにめちゃめちゃ怒られて、損を埋めるために再就職したんですけど、体がきつくて大変だって。そういう話を聞くと投資ってやっぱり怖いなって……。
※1 Foreign Exchangeの略。外国為替証拠金取引と呼ばれている投資。米ドルと日本円を交換するなど、通貨と通貨を交換する取引のこと。
CFP:それはなかなかつらい話ですね。しかし私がお勧めするのはそういうギャンブル性の高い投資とはまったく違います。しかも難しいことは一切ないので、初めての人でも安心して取り組んでいただけると思います。
まず基本的な考え方として、「大儲けをする」という発想ではなく、「年金の不足分を埋める」ことを出発点として、確実性の高いもので運用していきます。
芳江:確実性の高い投資、ですか?
CFP:はい、そうです。逆に私は確実性の高いものしかお勧めしないです。まずは先ほど算出した不足分の月8万円を目安に考えます。資産運用で月8万円以上が入れば理想的ですが、無理をしなくても、3〜5万円ほどのプラスを出せればいいと考えましょう。
月3万円としても、年額では36万円になります。30年では1080万円です。先ほど、30年間の不足額を2880万円と算出しましたが(第1回)、これから1080万円を差し引くと不足額は1800万円となります。元々の手持ちのお金が3000万円ですから、残りは1200万円ですね。
つまり95歳の時点でも手元に1000万円以上が残る計算となります。
光男:気持ちの上ですごくラクになりますね。ちょっとくらい長生きしても大丈夫かも(笑)。
CFP:今度は月3万円の利益を出すために、どのぐらいの投資をすればいいかを考えます。それはもちろん何に投資するかによって変わってきます。
鴨下さまの場合、資金が3000万円ありますが、これを全部投資する必要は全然なくて、たとえば半分は現金で持っておいて、残りの半分を投資に回すとか、「つみたてNISA」で少しずつ積み立てるとか、そんなイメージでいいと思います。
あるいは向こう10年間の不足分程度を手持ちとして確保しておいて、残ったお金を運用に回すという考え方もいいと思います。
光男:ほー、今まで私たちがイメージしていた投資とはまったく違うような……。
CFP:60歳以降は、資産の「量」よりも、毎月いくら入ってくるかという「流れるお金の量(キャッシュフロー)」を大切に考えることが必要だと思います。
たとえば今お二人が60歳で、70歳までの10年間で少しずつNISAを積み立てていけば、さすがに倍は難しいと思いますが、元金よりはまず増えるだろうと考えられます。そうしたら先ほど述べたインフレに対する対応力も十分つくわけです。
そうやって10年、15年スパンで上手に運用して増やしていけば、70歳、80歳になったときにどんどんラクになっていくはずです。
光男:それはありがたいです!