成長の起爆剤として活用されるM&Aも、失敗すれば経営に打撃を与えることになります。東芝によるウェスチングハウス買収はその代表的なケースといえるでしょう。日本を代表するエレクトロニクス企業は、一転して経営危機に苦しむようになります。

原子力大手を6200億円で買収

東芝は2006年2月、原子力発電大手のウェスチングハウスを54億ドル(約6210億円)で買収しました。目的はエネルギー関連事業の強化です。

東芝は国内の原子力発電プラントで高いシェアを獲得しており、エネルギー事業は重要な稼ぎ柱になっていました。原子力発電への需要がさらに増加すると見込み、世界市場で実績のあるウェスチングハウスの買収を決めます。東芝が沸騰水型原子炉(BWR)、ウェスチングハウスが加圧水型原子炉(PWR)とそれぞれ異なる技術に強みがあり、補完関係が期待できたことも買収を後押しした要因だとみられます。

ウェスチングハウスの買収は、短期的には業績に大きく貢献しました。2007年3月期から連結が始まり、翌期にはエネルギー事業を含む「社会インフラ」セグメントは最大の収益源へと成長しています。

【当時のセグメント営業損益(2006年3月期~2008年3月期)】

   2006年3月期   2007年3月期   2008年3月期 
 デジタルプロダクツ 
(パソコンなど)
209億円 158億円 150億円
 電子デバイス
(半導体など)
1233億円 1197億円 741億円
 社会インフラ
(電力など)
765億円 968億円 1313億円
 家庭電器 27億円 97億円 39億円
 その他 180億円 187億円 147億円


出所:東芝 決算短信