「家計の経済安全保障」という言葉の意味
こうした中で学者として初の就任となった植田和男日銀新総裁は、歴史上稀(まれ)にみる八方塞がりの状況下での船出となり、日銀自体の実質債務超過に起因する信認喪失リスクという「動脈瘤」を破裂させることなく縮小させ日本経済に健康体を取り戻すことができるか、情勢はまったく予断を許しません。
デフレに戻るのも困るが、インフレが急伸するのは絶対に避けたい(さりとて引き締めもできない)という中で、市場関係者が固唾(かたず)をのんでその動向を注視しています。
こうなると、「経済の安定は政府・日銀が何とかしてくれるから大丈夫だろう」という過度な楽観はさすがにやめておいたほうが良いでしょう。頼れるのは「自助」のみ、まさに自分の生活は自分で守る時代なのです。
というわけで、これからは自分・家族の生活や資産を守りたいのであれば、今までの考え方と行動を大きく変える必要が出てきました。
それが、私がこのタイミングで政府が掲げる「新しい資本主義」の下での「家計の経済安全保障」について、筆を執る決心をした理由です。
2022年から「国の経済安全保障」(国家の経済活動や国民生活に対する脅威を取り除き、一国の経済体制や社会生活の安定を維持するために、エネルギー・資源・食料などの安定供給を確保するための措置)が取り沙汰され、無論これも重要な政策テーマの一つではありますが、一般国民にとっては自分や家族のオサイフ事情のほうが、より差し迫った、プライオリティが高い課題です。
そこで筆者なりに「家計の経済安全保障」を定義すれば、「自分や家族の経済活動や生活に対するリスクを最小化し、持続可能で豊かな生活のための資金戦略を考え、行動すること」となります。
はじめにお断りしておきますが、本シリーズ(全4回)はいわゆる「お金儲け」や「投資指南」の記事ではありません。したがって読者として、投資や利殖の戦法を求める方々は想定しておりません。
そのかわり、どうしたらインフレ下でも資産を減らすことなく、自分・家族を経済的に守り、持続可能で豊かな生活を確保できるか、その「基本となる考え方」について、私見をできるだけ分かりやすくお伝えすることを目指しています。確実に言えることは、「リターン(収益)は、必ずリスク(危険)に見合ったものである」。よって「絶対に儲かる投資法など存在しない」ということです。
●第2回(お金を普通預金に放置する“悪手”…原因は“正常性バイアス”のせいだった!?)では、今の日本において「資産運用に対して、何もしない」ほうがいかに“残念な事態”につながるのかを解説します。
『「新しい資本主義」の教科書』
池田健三郎 著
発行所 日東書院本社
定価 1,760円(税込)