日銀券に暗い影を落とす原因とは?

さて、従来のデフレ下は「金利をほぼ気にしない世界」であり、私たちは自身の資産をどう守るかについてあまり真剣に考えず、「とりあえず現金をタンス預金に」という対策でも取り残されるリスクは低かったのですが、これからは、まったくそうはいきません。

加えて、DX(デジタル・トランスフォーメーション)※1 や、コロナ禍の教訓も私たちの考え方を変え、行動を変えました。もはや人間の行動も「コロナ前」に完全に戻ることはありません。

※1 企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

このほか、ロシアによるウクライナ侵攻、東アジア情勢、少子高齢化と労働力不足、社会保障の水準維持の困難化、公的債務の増嵩(ぞうすう)、貿易赤字、電力不足、公共調達(五輪等)の機能不全等々……日本はまさに課題山積で将来が見通しづらい混迷期にあります。

さらに残念なことに、デフレ脱却を図るべく実施してきた日本銀行による金融緩和が、あまりに長期かつ大規模となり、その手法も株式・不動産市場にまで中央銀行の資金を大量に注いだうえ、財政法が禁ずる政府債務の実質的な日銀引受が脱法的に行われるなど「なんでもあり」の領域に踏み込んでいます。

今や日銀は、発行済み国債の過半を保有するという異常事態で、このような先進国は他にはありません。その結果、国債の価格暴落リスクと連動した日銀の債務超過陥落リスク(時価ベース)が、肥大化した動脈瘤の如き様相を呈し、日銀券(お金)に対する信認維持に暗い影を落としています。こうした状況を、「やむを得ない」と評する向きもありますが、さすがに「サスティナブル(持続可能)である」とは言い切れないでしょう。