現在は状況が大きく変わっている

では今はどうでしょうか。前述したように、昨今は銀行預金をする人は増加傾向をたどっていますが、これは銀行にとって喜ばしいことなのでしょうか。

東京商工リサーチが定期的に行っている「預貸率調査」を見てみます。

預貸率とは、預金や譲渡性預金を通じて銀行が集めた預金合計額に対して、貸出金合計額の比率を示した数字です。この数字が100%だと、預金合計額と貸出金合計額がイコールであり、貸出金合計額が預金合計額を上回ると100%を超えてきます。逆に貸出金合計額が預金合計額を下回ると、預貸率は100%を割り込んで低下していきます。

2022年3月期における、国内106銀行の預貸率は、61.9%でした。同調査によると、この数字はリーマンショック前の2008年以降で最低を記録したということです。

ちなみに、2022年3月期における貸出金合計額は589兆9628億円であるのに対し、預金合計額は952兆6001億円でした。両者の差を「預貸ギャップ」と言い、2022年3月末のそれは362兆6373億円となります。この預貸ギャップは年々増加傾向をたどっています。

これは、それだけ多くの銀行において預金が余っていることを意味しています。そしてその理由は、いくら預金を集めてもそれを貸し出す先がないことにあります。

預金の増加は、銀行に対して高い信頼があることの証でもあります。もし銀行の経営が危ぶまれ、倒産リスクが高まっている状況下なら、誰も銀行にお金を預けようとはしないでしょう。

1990年代後半から2000年代前半にかけて、日本ではバブル崩壊の影響で銀行が多額の不良債権を抱え込み、複数の銀行が破綻するといった時期もありましたが、あれから20年近い時間が経過し、金融不安は一段落しています。

だからこそ、個人金融資産の55.2%に相当する1116兆円もの資金が現金、ならびに預金で保有されているわけですが、銀行にとっての問題は、集まった預金の運用先をどうするか、ということです。前述したように預貸ギャップは年々増加傾向をたどり、2022年3月末のそれは、362兆6373億円にもなりました。この運用先をどうするかが、大きな課題になります。