原監督の大損を引き起こしたと考えられる原因

では今回の原監督の被害の原因はどこにあり、個人投資家が学ぶべきことは何なのでしょうか?

クレディスイスはUBSに買収されましたから、基本的には救済されたことになります。そうであるにも関わらず、「単なる債券」を買ったと思い込んでいる原監督からすれば、どうして自分のお金が戻って来ないのか、釈然としないのは当然のことでしょう。

「そういう条件になっているから」と言ってしまえば、それまでなのですが、恐らく原監督にAT1債を販売した営業担当者がこの商品を販売するにあたって、リスク要因をしっかり説明したのかどうかという点は大いに疑問です。

現に原監督は、営業担当者に「ローリスク・ローリターンでいいです」と言ったにもかかわらず、当の担当者はAT1債を勧めたと言っています。

債券である以上、発行体が破綻すれば紙切れになるリスクは伴います。ですが、普通社債に比べて弁済順位が低いことや、クレディスイスの経営状況を含めた情報を、この営業担当者はどこまで説明したのでしょうか。

クレディスイス・グループの株価を見ると、2007年4月に70ドル台の高値を付けた後、2020年3月には8ドル台へと、ひたすら下落の一途をたどっています。ちょっと気の利いた証券営業担当者であれば、株価がここまで下落の一途をたどっている以上、何かしら重大な経営問題を抱えていることくらい容易に察することができるはずです。

つまり、原監督にクレディスイスのAT1債を勧めた営業担当者は、クレディスイスの破綻リスクを知っていたにもかかわらず、手数料収入を稼ぎたいがために、それを隠して商品を勧めたのか、もしくは単なる無能者かのいずれかであると断言できます。

ただ、「安易な気持ちで投資に乗り出したら、私みたいな被害に遭う。被害に遭うと、人生が台無しになる」という原監督の意見には、いささか賛同しかねます。

インタビューで答えたこの言葉の前後が分からないので、何とも言えませんが、このコメントを聞いて、「投資は怖いからやらない方がいい」と思う人も出てくるでしょう。

今回の問題は、投資そのものが悪いのではなく、リスク説明を怠ってAT1債を販売した証券会社の非を問うべきなのです。