(2)マスメディア・専門家は悪いニュースしか取り上げない

前述のとおり、人間は物事のポジティブな面よりもネガティブな面に本能的に注目してしまいます。そのため、マスメディアの報道姿勢も、世間の注目を集めて購読部数や視聴率を伸ばすには、良いニュースよりも悪いニュースを報じることに軸足を置くこととなり、結果として不安を煽ることが常態化しています。例えば、為替相場が円高になったら「輸出産業に打撃」と報じる一方で、円安になったら「輸出産業にとって好機」ではなく「輸入産業に打撃」と報じるのは、まさしくその典型です。

また、マスメディアにとって政府・与党は「権力者」という批判対象なので、どんな政策だろうが叩くのが基本姿勢です。そのため、公的年金もその煽りを受けて不当に批判される傾向にあります。これに対して私的年金(企業年金・個人年金)は、企業や金融機関などマスメディアの大口広告主が運営しているせいか、よほど大きな社会問題にならない限りは公的年金ほど批判の対象にはなりません。

さらに、マスメディアに登場する著名な専門家(学者・評論家等)も、悲観論あるいは事後指摘に終始することがほとんどです。悲観論は、論者を知的かつ冷静に見せるうえに、事態が悪化すれば「私が予見したとおりだ」と威張ることができ、逆に事態が好転すれば「私が警鐘を鳴らした最悪の事態は免れた」と胸を張ることができるという、論者にとっては実に好都合なものだからです。

(3)年金をめぐる社会・経済環境が大きく変わった

前述の(1)および(2)の要因は、危機に敏感に反応する人間の本能に基づくものです。外敵や天変地異から身を守る必要があった太古の昔であれば、立ち止まって熟考するよりも直感で即行動するほうが合理的だったかもしれません。しかし、現代においていまだに直感だけで行動するのは、情報(あるいは情報を発信する者)に振り回されるのが関の山です。文明が高度に発達した現代社会では、本能の赴くままに不安視するのではなく、知識や理性をもって「正しく恐れる」ことが重要です。

そして、正しく恐れながら老後生活に備えるためには、年金をめぐるここ20年から30年にかけての社会・経済環境の変化を正しく認識しておく必要があります。それはそのようなことか。次ページ以降で説明します。