Apple、Amazon、HBO。大手がこぞって組みたがる気鋭のプロダクション

実はA24の強みは、その作品性のみではない。インディペンデントの会社は作品では評価されても興行面で苦しむことが多いものだが、A24はビジネス的な手腕も高い。

設立直後の2013年からディレクTV(米国の衛星放送サービス)およびAmazonプライムとの配信契約を結び、現在はAppleとも複数年の契約を結んでいる。また、米国最大手のケーブルテレビ放送局のひとつ・HBO(Home Box Office、ワーナー・ブラザース傘下)とも契約し、次々とオリジナルドラマの製作を行っている。

若手の監督が撮るエッジの立った作品は小規模で製作し、メジャー作品では大手と提携するなどメリハリをつけたビジネス戦略も特徴だ。アカデミー作品賞を受賞した『ムーンライト』もブラット・ピットの設立した会社「プランBエンターテインメント」との共同製作だ。

現在はAppleTV +で配信中のジェニファー・ローレンス主演『その道の向こうに』や、ジュリアン・ムーア主演『Sharper:騙す人』の共同製作なども行っているが、こういったオスカー女優を起用するような大型プロジェクトは、独立系の製作会社が単独で実現することは難しい。大手企業とのタッグや、良質な作品の配給権の獲得で資金面をクリアしているからこそできるチャレンジだといえる。

アジア系の才能にも着目、多様性に満ちたビジネス戦略

アジア系の監督・俳優に焦点を当てる多様性に満ちた戦略も魅力だ。今回A24最大のヒット作になった「エブエブ」は中国系俳優(しかも中年女性!)がヒロインであり、脇役も中国系俳優が固める。

© 2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.


『別れる決心』が話題となった韓国のパク・チャヌク監督もHBOとA24が共同製作するドラマシリーズを撮影中だ。Appleと共同製作のドラマ『Sunny』は西島秀俊など日本人俳優の起用が決定している。

そもそもアカデミー賞で高く評価された『ムーンライト』も、同性愛の黒人男性という、マイノリティを描いたドラマだった。こういった新しい感覚が、Z世代を始めとする若い世代の価値観にフィットしたのではないだろうか。

評価の定まってない若い監督やマイノリティを大胆に起用していく手法は、フットワークの軽い新興スタジオならではの強みだ。