インフレは簡単にコントロールできるのか?
利上げが十分に行われたことで、インフレが落ち着く兆しが見えてきたと冒頭で申し上げました。けれども、本当に落ち着きを取り戻しているのか、この点にも注意を向ける必要があると考えています。確かに米国CPI(消費者物価指数)は2022年6月に9.1%(前年同月比)のピークをつけた後、徐々に下がってきています。これを受けて、米連邦準備理事会(FRB)の利上げもあと1回というのがコンセンサスとなっています。
しかしながら、インフレはそんなに簡単にコントロールできるものではないとも言われています。高名なクオンツ・アナリストであるロバート・アーノット等のペーパー(Robert Arnott、Omid Sakernia、「History Lessons: How “Transitory” Is Inflation?」、2022年11月)では、一度8%以上にインフレ水準が上がってしまうと、過去の70%のケースにおいてさらに高いインフレになっています。またこのインフレ率が半減するまで平均すると7年近くかかったと分析しています。インフレが賃上げにつながると、そこからインフレの上方スパイラルにつながる可能性が高くなるからです。インフレが高い水準で続くのであれば、FRBは簡単に利下げできなくなりますから、上述の債券投資家の期待は実現しなくなるでしょう。
また長期的には労働力人口の低下やリニューアブル・エネルギーへの転換、ESGのSocialの観点から労働コストの上昇など、インフレ圧力はむしろ高まっています。足元ではインフレがピークを迎えたので、早晩、抑制されると多くのエコノミストが予想していますが、そもそも彼らの多くは昨年の高いインフレを予想することができていません。したがって、予想が当たらない可能性も考えておくべきでしょう。なぜならば、そうなったとすればインフレからかなりのダメージを被る資産が債券だからです。