2.支出を削るだけでなく、「収入を増やす」視点も持つ

2点目は、恐らくこの冊子に書かれている内容を理解しただけでは、資産を増やすことはできないということです。つまり、資産形成に努め、クレジットカードやローンを利用した無駄遣いを最小限に抑え、無駄な保険料を払わないで済むように必要な保険を把握したとしても、資産自体は増えないのです。なぜなら、冊子に掲載されている内容には、資産形成をするうえで一番大事な視点が抜けているからです。

ここで言う一番大事な視点、それは「収入を増やす」ことです。これはこの冊子だけでなく、マネー雑誌や資産形成に関連するサイトなどにも言えることですが、収入からの支出をいかに節約し、貯蓄をし、さらに投資をして増やすかという点にばかり焦点が当てられてしまっています。どれだけ節約を頑張ったとしても、収入以上の貯蓄はできません。当然、月々の生活費は必要ですから、収入から生活費を差し引いた以上の貯蓄はできず、節約には限界があります。

日本が高度成長のど真ん中だった頃は、「所得倍増計画」が唱えられ、実際に会社員の給与は大きく上昇しました。

ちなみに厚生労働省の「毎月勤労統計調査」で、「常用雇用者1人平均月間現金給与額」の推移を見ると、事業所規模30人以上(サービス業を含む、但し1969年以前はサービス業を含まない)では1950年が9224円で、1970年には7万5670円になりました。その後も上昇は続き、1997年には42万1384円まで増えています。

つまり、同じ会社に勤め続けて、同じような仕事をしてさえいれば、自然と収入が増えていったのです。結果、個々人がいかにすれば収入が増えるのかを考えずに済んだとも言えるでしょう。

しかし、これからの時代はそうはいきません。すでに前出と同じ数字を見ると、1997年をピークに減少傾向をたどっています。ちなみに2021年のそれは36万8493円で、この24年間で12.6%も減少しました。

収入がどんどん減っているのですから、いくら節約を頑張ったとしても、資産形成に回せる額には限界が生じてきます。だからこそ、収入を増やす方法を考える必要があります。

収入を増やすといっても、隙間時間にアルバイトをするという類の話ではありません。隙間時間にアルバイトをして副収入を得るのは、人生の伸びしろが無くなった人たちの考えることで、社会人になったばかりの人が考えることではありません。若手社会人が収入を増やすのにまず考えるべきは、自分のキャリアアップにつながる知識習得です。

私の知り合いのファンドマネジャー(他人から預かったお金を運用する人)は、銀行からキャリアをスタートさせましたが、自腹で英語を習得し、かつ海外留学までして今の地位を築いています。恐らく、かなりの額のお金を使ったと想像できますが、それは今の自身を築き上げるために必要な投資と考えられます。

20代のうちは「長期、積立、分散」投資の前に、自己投資に資金を投じるべきでしょう。それが将来、自分が働くことで得られる収入増につながり、より大きな資産形成の礎になるはずなのです。「長期、積立、分散」投資も大事ですが、キャリアアップのための自己投資を行ってから始めても遅くはないでしょう。