「老後は日本で過ごしたい」と考える、在米日本人が増えている

私はアメリカで日本語を話す方々を対象に、ファイナンシャル・プラニングを提供しています。「アメリカ暮らしのファイナンシャル・プラニング」と銘打っているので、アメリカに住み、アメリカで働き、将来はアメリカでリタイヤメント生活を送る人がメインのターゲットです。

ところが、コロナが始まってからここ数年で、「将来的には日本に帰りたい」と希望するクライアントの方がだんだんと増えているように感じています。

コロナが猛威を振るって社会生活が止まったしばらくの間に、多くの人が「死」を身近に感じ、「生きる」とは何かを考えたことと思います。仕事をはじめ、お医者さんの診察を受けたり、趣味の習い事まで多くのことが、リモートでできるようにもなりました。人とじかに触れあうインタラクションは減り、社会の中で生きるということを考え直す機会があったとも思います。人生の最後には、一体どこでどんなふうに生きていたいかも考えさせられました。

私自身、今まであまり立ち止まって将来のことなど考えたことがなかったのですが、足も弱り、記憶も弱り、多くのことができなくなったら、やっぱり日本で過ごしたいなと感じるようになりました。老人ホームに入ってまで、ピザやマカロニ・チーズは食べたくない、お祝いの食卓には丸焼きターキーではなくて手巻き寿司のほうがいい――何十年アメリカで過ごしても、やっぱりしょうゆとみりんがない生活など考えられません。

しかも、若いうちは英語がなんとか話せていても、だんだんと脳が老化するにつれて第二言語は失われていくそうで、すっかり英語が話せなくなる人もいるそうです。例えば認知症が始まっていろいろな物事が分からなくなったうえ、暮らす国の言語も話せず、周囲に思いも伝えられない……という事態になれば、それはそれはつらいことでしょう。なので、「ゆくゆくは日本に帰りたい」というお客様の声にも、うなずくばかりです。

実は日本人や日系人が多い南カリフォルニアには、日系のケア施設を運営する敬老シニアヘルスケアと呼ばれる非営利団体がありました。1975年からの歴史があり、日本人や日系人のために食事や言語環境を整えた4施設を運営していました。このうちの1つには、私も何度かボランティアでコーラス隊の一員として歌いに行ったことがありました。「花(春のうららの隅田川)」とか「ふるさと」を歌うと、目に涙しながら聞いてくださった入居者の方の顔がありました。きっと日本に帰りたいんだろうな、と思いながら、こちらも胸が熱くなったものです。

ところがこの敬老シニアヘルスケアは、2016年に営利団体であるパシフィカ社に売却され、どんどんと日本の色を失いつつあります。売却後は、言語・文化環境だけでなく、ケアの細やかさなどにも変化が表れていると聞いています。本当に残念で悲しいことです。