自身もいずれ「認知症になる」と想定して対策を

私たちの人生は長いです。「75歳をイメージした生活設計に取り組みましょう」とお伝えしてきましたが、その後の人生もまだまだあります。そして、認知症や介護、相続に直面します。

厚生労働省の発表によると、認知症の有病率は年齢と共に高まると言われており、80歳代の後半であれば男性の35%、女性の44%、95歳を過ぎれば男性の51%、女性の84%が認知症であることが明らかになっています。この数字を踏まえると、私たちはいずれ認知症になるものだと想定して、対策を考えていくしかありません。もちろん認知症にならずとも、介護で誰かにお世話になることも前提にした方がよいでしょう。そしていずれ亡くなります。

認知症になると、お金の管理ができなくなります。能力的にできなくなるということと、社会的にできなくなるという二つの意味があります。銀行口座から年金を引き出せなくなりますから、日々の暮らしも困ります。各種契約はできなくなりますから、家を売却したお金で施設に入りたいとなっても、自分ではどうにもならなくなります。

対策を立てずに認知症を発症してしまうと、「成年後見人」という代理の方に様々な手続きをお願いすることになります。きっと誠意を持って対応してくれると思いますが、そもそもこれまで全く縁がない方が任命されることも多いですし、すでに依頼人との意思疎通は難しくなっている訳ですから、自分が思い描いた暮らしを維持できるのかというと、かなり難しいでしょう。

相続も然りです。「亡くなったら終わり」ではなく、自分が亡くなった後に資産の整理が必要となります。各種届け出もあります。解約だけでなく、給付金等の受取の手続きもあるでしょう。でも、どこにどのような口座があるのか、契約があるのか分からなければ、相続人もお手上げです。

ちなみに、自分自身が相続人である場合でも認知症を発症していると、なかなか面倒なことが起こってしまいます。また、亡くなった方が認知症を発症していても、同様にすんなりと運ばなくなります。

つまり、何かしら対策をとっておかないとダメだということです。具体的には、家族信託を利用したり、任意後見人を立てたり、遺言書を用意したりすることが有効です。

実際、専門家による問題提起も増えてきており、社会的にも上記のような対策の必要性を感じる方が増えてきているようです。ただし気をつけなければいけないのは、むやみやたらに騒ぎ立てると、もっと大切なものを失ってしまう可能性があるという点です。

例えば、「相続税」を支払わなければならない人は、それほど多くはいません。なぜならば、相続財産のうち「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算された金額は、税金のかからない枠として控除されるからです。例えば、夫婦に子ども2人という家庭であれば、夫が亡くなったとしても法定相続人は妻と子2人となり、合計4800万円までの財産は非課税です。

つまりそれ以上の財産があれば「相続税」の支払いが必要となりますが、それ未満であれば税金の支払いは発生しないのです。もちろん、税金の支払いは不要ですが父親が遺してくれた財産は、遺された家族で遺産分割をします。