終活は中高年の時代からはじめよう

人生100年時代、高齢期を迎えても快適な生活ができるかどうかの視点も大切だ。段差をなくしたり減らしたりする、階段には手すりを付けるなどの対策が必要だ。

海を越えたニューヨーク市では、地価の高騰もあり、ちっぽけな家(tiny house)も人気だそうだ。子供たちが巣立ち、夫婦2人だけになった家が大きすぎると悩む高齢者は少なくない。掃除をするのも大変になり、引っ越しを考える人も多いようだが、引っ越しに伴う家屋の売却・購入、不動産業者への手数料支払いなど、精神的にも金銭的にも高齢者への負担は重くなりがちだ。

また、自宅にするか老人ホームにするかの選択にも直面する。私事ではあるが、一人住まいをしていた今は亡き母親が、持病の治療のため専門病院に近い弟の家へ一時的に転居した。それまで活発に近隣の親戚・知人の住居を行き来していた母だったが、引っ越した翌日には歩行困難となってしまった。よろけた拍子に鏡台に頭をぶつけるほど弱り、弟夫婦に頼り切る気持ちが膨らんだようだ。近隣でも評判だった自立心あふれる母親の姿は突然消え去り、間もなく寝たきり状態になってしまったのだ。

こうした例は、数多く耳にする。高齢になっても自立し続ける気持ちが大切なようだ。最近は住み慣れた地域で生涯にわたり過ごせるよう「地域包括支援センター」が存在する。ケアマネジャー、保健師、医師、看護師などが連携する高齢者へのサポート体制が採られている。高齢になった人は訪問しさまざまなサービスを確認しておく必要がある。

テクノロジーを活用した見守りサービスなど、いわゆるエイジテックは、ますます広範囲に開発され高齢者の自立をサポートすることが期待される。一方で、地域包括支援センターなどからの助言に耳を傾け、老人ホームに入所した方が良いと判断された時には素直に従うことも必要だろう。

ただ、老人ホームにも種類が多い。判断力が鈍り動けなくなってから自分に合う施設を探すには無理がある。念のため元気なうちに、各種の施設を見学することもおすすめだ。望み通りの施設は、望むべくもない。見学を重ねる中で、食事をはじめ自らが優先したい事項を、親族や関係者に伝えておくことも重要だ。

執筆/大川洋三

慶應義塾大学卒業後、明治生命(現・明治安田生命)に入社。 企業保険制度設計部長等を歴任ののち、2004年から13年間にわたり東北福祉大学の特任教授(証券論等)。確定拠出年金教育協会・研究員。経済ジャーナリスト。著書・訳書に『アメリカを視点にした世界の年金・投資の動向』など。ブログで「アメリカ年金(401k・投資)ウォーク」を連載中。