足下のインフレは「悪いインフレ」傾向

通常、インフレは以下のような流れを伴うため、企業にとっては追い風となる。

まず、景気の拡大によってモノが売れるようになり、需要を供給が上回ることで物価が上昇する。モノが売れるので企業の業績もアップし、賃金も上がる。消費者の購買力が上がるのでモノは高くても消費は増え、景気はさらに加速。企業の業績はますます好調となる。

ちなみに、景気の影響だけではなく、原材料や資源価格といった生産コストの増大によってインフレが生じる場合もある。

景気拡大を伴うインフレを「ディマンドプルインフレ」と呼び、コスト高から生じるインフレを「コストプッシュインフレ」と呼ぶ。一般的に、前者は良いインフレ、後者は悪いインフレとされる。コストプッシュインフレは賃金の上昇が行われないまま物価が上がり、消費者の生活を圧迫する恐れがあるからだ。

現在のインフレは原油価格の高騰や円安による輸入コストの上昇による影響が大きく、悪いインフレの性格が強いといえるだろう。

売上が増えないまま生産コストだけがあがると、企業の利益も減少してしまう。もちろん、生産コストの増加をそのまま価格に転嫁できれば利益の確保も可能だが、企業には値上げを簡単に行えないジレンマもある。

中小企業庁の「価格交渉促進月間(2022年3月)のフォローアップ調査」によると、全般的なコスト上昇分のうち1〜3割しか価格転嫁できなかったと答えた企業が22.9%、全くできていないと答えた企業が22.6%という結果に。特に運輸関係でその傾向が顕著であった。理由としては、値上げすることで他社との価格競争に負けてしまう恐れがあること、長期間料金が改定されておらず新たに提案しづらいことなどがあげられている。

また、消費者物価指数に対して、企業間で売買される物品の価格変動を示す「企業物価指数」がある。

2022年8月の企業物価指数は前年同月比で9.0%上昇。一方、同期間の消費者物価指数の上昇率は生鮮食品を除く総合で2.8%に留まっており、コストアップが消費者の購入価格に転嫁されず、企業内で吸収されている状況もうかがえる。