手続きを依頼した専門家から、離婚した妻も相続人であるとの指摘があったのです。山下さんは、妻と離婚したことで妻と父の養子縁組も解消されるものと思い込んでいました。しかし、法律的には養子縁組関係は自動では解消されず、離婚と同様、養親と養子が養子縁組の解消に関して意思を合致させる「養子離縁」という手続きが必要となるのです。
養女の地位であることを知った元妻は、もともと自らへの財産分与を主張していたため、今回の相続で法定相続分である4分の1の相続権について弁護士を通じて要求してきました。山下さんにとって、想定とは全く異なる、まさに「こんなはずじゃなかった」という結果になってしまいました。
専門的観点からも山下さんは間違いを犯していた
今回、山下さんは大きな失敗を2つしていました。1つは、相続はあくまで自分と妹の2人で分け合うつもりであることを妻に説明していなかった点。もう1つは、節税対策のために養子縁組するということを妹に伝えていなかった点。これらは言うまでもなく、前もってきちんと話し合っていれば防げた問題です。本来の意図が伝わっていれば、円満相続が実現していたでしょう。
しかし、専門的な観点からも、山下さんは大きな間違いを犯していました。
相続税対策の効果は「誰」を養子縁組しても同じ
山下さんは養子縁組で父の相続人を増やし、その分控除額を増やすことで相続税を軽減できると考えました。妻と息子の2人を父の養子としたのはそのためです。しかし、今回のケースでは相続税対策の効果は限定的でした。
民法の規定では何人でも養子に入れることはできますが、相続税法の規定では、実子がいる場合1人しか養子としてカウントすることはできないのです。つまり、妻と息子の2人を養子にしても、どちらか1人分しか相続税対策の対象にはならないのです。また、それが妻であっても息子であっても、節税の効果は変わりません。
離婚した場合は「養子離縁」も忘れずに
今回のように、被相続人(父)の子(山下さん)と養子になった子の配偶者(妻)が離婚した場合には、養子縁組の解消を速やかに進める必要があります。
ただし、養子側がそれに応じる意思がない場合には、当然のことながら養子離縁まで難航する可能性は高くなります。また、子の離婚時に養親側が認知症であった場合には、養子離縁の意思表示ができないことがあるため、この場合にも養子離縁までたどりつかない可能性が高くなります。
非常にセンシティブな問題ですが、さまざまな可能性を考慮に入れて、あらかじめ対応しておく必要があることに留意しましょう。
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