なぜオレオレ詐欺に引っかかったのか

事務所に姿を現した秀子さんは、膝の痛みがあるそうで若干足を引きずっていましたが、自分で自動車を運転して通院したり、遊びに出かけたりと元気そうなご様子。話し好きな人らしく、挨拶もそこそこに秀子さんは自分から話し始めました。

「私はね、今は年金で暮らしていますけど、昔は主人の経営する自動車整備工場を切り盛りしていました。自分で言うのもなんですが、よく働きました。景気が良かった頃は従業員も10人くらいいて、とても繁盛していたんですよ! 主人は人付き合いが良くてお金が出ていくことも多かったけれど、私がやりくりしてコツコツ貯めてきたんです」

秀子さんはお金があっても贅沢をしないで蓄財する、堅実な人のようです。

「家業が堅調だったことから、主人は長男に継がせたいと考えました。長男は他にやりたいこともなかったようで、自動車整備士の学校を出て家の仕事を手伝うようになりました。ただ、その頃から徐々にこの業界に陰りが出始めて、事業も縮小していったのです。主人が亡くなって息子が事業を継ぐ頃には、従業員もいなくなって家族だけの経営になりました。私もやっていた仕事はお嫁さんに任せて、隠居することにしました」

こうして秀子さんは会社の仕事を離れて、セカンドライフを迎えたのです。

「会社の仕事を息子とお嫁さんに任せてからは、一切口を出さないようにしています。彼女は気が強く、私とは合いません。息子はもともと主人のような商才がないので、現状維持が精一杯という感じですね。商売が上手くいかないので、この仕事に就くように仕向けた主人を恨んでいるようです。だから私にも冷たくて……ほとんど口をききません」

長男夫婦は同じ敷地に暮らしているといっても、折り合いは良いとはいえないようです。

そんなある日、県外に住む次男を装った男から電話がかかってきました。そして、まんまとだまされ、電話の主の代理の男が待つ公園に、現金300万円を届けてしまったのだそうです。

オレオレ詐欺の男の「お母さん、元気?」という優しい言葉がけに、すっかりいい気持ちになり、一瞬「次男と声が違うような気も……?」という“ごく小さな違和感”はあったそうですが、すっかり信じてしまったと言います。敷地内に息子夫婦はいても折り合いが悪く、秀子さんが孤独感を募らせていたのも無関係ではないでしょう。

「そのときの私の心境はまさに詐欺師にとって“いいカモ”だったのでしょう。今思い返すと、情けないやら、悔しいやら……」

警察には届けましたが、犯人はまだ捕まっていないとのこと。しかも、話はここで終わりません。

この被害の顛末をなじみの銀行担当者に話したところ、一時払いの外貨建て保険の提案をされました。「預貯金では詐欺被害に遭ったときにすぐに下ろせてしまうから」との思いやり(?)からだそうです。

担当者はかなり強気に勧めてきて、申込書まで用意してありました。さすがに秀子さんは即決する気にはならず、考える時間が必要だと考えました。

「この保険に入ってもいいと思う気持ちもありますが、本当に必要かどうかよく分かりません。そのことを相談したかったのです」

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