資産価値は目減りする住宅。インフレ下での預金のリスクも

もっと言えば、35年の住宅ローンを完済した後の資産価値がどうなるのかも考えておく必要があります。たとえば戸建ての場合、建物部分の資産価値はゼロです。またマンションでも築年数が30年を超えると、資産価値は70%程度減価すると言われています。いわゆるヴィンテージマンションのように、築古になっても資産価値が高いマンションもありますが、そもそもヴィンテージマンションは価格が億越えになるのが普通なので、一般的に会社員が購入するのは現実的ではありません。

これは人によって考え方はさまざまですが、給料の伸びが期待できないのに、30年も経つと資産価値が大きく目減りするものに多額の資金を投じるのは、合理的な判断なのかどうかを冷静に考える必要があります。

昭和な親は、恐らくこういうことも言うでしょう。「株式投資をすると損をする。預金にしておけば安全だ」。

預金で資産形成が出来たのは、それこそ高度経済成長時代の話です。当時は日本国内の資金需要が旺盛だったので、銀行は高い金利でお金を集める必要がありました。つまり預金利率は高めを維持できたのです。

翻って今はどうでしょう。銀行の預貸率をみれば一目瞭然です。預貸率とは、銀行に集められた預金の運用状況を示す指標のひとつで、預金残高に対する貸出残高の比率を示します。東京商工リサーチが調べた2022年3月期の預貸率は、国内106行の単独決算ベースで61.9%でした。それだけ預金が余っていることを意味します。いくら預金を集めたとしても貸出先がないのですから、銀行としては負債のコストになる預金利率を引き上げるわけにはいきません。

その一方で物価は上昇傾向をたどっており、消費者物価指数の上昇率は2%に乗せています。このまま物価が上昇し続けるかどうかは何とも言えませんが、インフレ圧力が強まる反面、資金余剰で預金金利が上がらないという環境が続けば、預金にしておいたお金の価値は確実に目減りします。つまり、昭和な親が言う「預金にしておけば安全」というのは、この時代には通用しないのです。

もちろん、かなり深刻な状況にある日本の財政赤字を引き金にして債券先物市場で日本国債が売り込まれ、長期金利上昇のトリガーを引くことも考えられますが、そうなった時は日本全体が危機的な状況ですから、それこそ国内銀行の預金に預けておくこと自体がリスクになります。

若年層の給与水準が伸びなくなり、住宅の資産価値が下がり、銀行預金の利率が極限にまで低下する一方、財政赤字が深刻化する。これらの要因は、日本の社会構造が人口減少・超高齢社会によって、大きく変わったからです。そうである以上、令和の時代を生きていかなければならない人たちは、親から言われたお金の常識を疑う必要があるのです。