金融庁は仕組債のどんな点を問題視したのか?

このようなリスク・リターン特性を持つ仕組債ですが、中身はデリバティブを活用して投資家が望むように損益曲線を変えているだけであり、それ自体は何ら悪いものではありません。しかし、使い方/売り方によっては投資家にとって害を及ぼす可能性があるということで、金融庁がウォーニングを出しているのでしょう。リーマンショックの時に証券化が問題視されましたが、金融テクノロジーである証券化自体に問題はなく、使われ方(サブプライム・ローン)が問題だったケースと非常に似ていると思います。

多くの投資家は、市場の危機時に資産を守ってくれる商品を望むと思いますが、仕組債は上述の通り、危機時ほど大きな損失になるため、全く逆になります。このような特徴があるにもかかわらず、高いクーポン収入が得られる「債券」として投資家に勧めたのであれば、投資家が想定する「債券」のリスク・リターン特性のイメージとは全く異なるため、「こんなはずではなかった」ということが起こるのです。市場が凪の状況であればこのミスコミュニケーションは顕在化しませんが、市場暴落時にはこれが顕在化するため、いま投資家からクレームが出てきているのだと思われます。

なお、仕組債以外にも、債券でありながら株式のように高い変動性の資産は存在します。新興国債券やハイイールド債券などはまさにそれに当てはまります。このような資産は一般的に株式市場との連動性が高くなりますので、いわゆる「債券」のイメージとは異なります。洗練された機関投資家の中には、これらを株式に分類してリスク管理しているところもあるくらいです。個人の投資においても、仕組債などを株式の1つとして分類・管理していく必要があるのかもしれません。

また、仕組債は投資信託などのコストが見えやすい商品と比べてコストが見えづらく、販売手数料を取られることもありませんので、顧客にとっては一見するとコストが安く見えているのも問題視されています。当レポートでは、仕組債ではコストが見えていないだけで、実質コストは年率換算で8~10%程度に達すると考えられるとされています。この低金利下で、これだけのコストがかかるにもかかわらず、それが顧客に伝わっていないとすれば、大きな問題と言えるでしょう。