インフレ懸念、利上げ、そしてロシアによるウクライナ侵攻などの影響で、年初から株式市場の下落が続いています。株式投資家はもちろん苦戦を強いられていますが、「仕組債」という債券を購入した投資家の損失が膨らんでいるという話もよく聞くようになりました。「債券に投資をしたはずなのに、なぜこんなに大きなマイナスになるのか」といった話です。

そんな中、金融庁が本年5月下旬に公表した「資産運用業高度化プログレスレポート2022」(以下、当レポート)において、仕組債について言及されており、データ分析に基づいてその注意点が指摘されました。今回は、特に富裕層向けによく販売されている仕組債について、長期投資の観点から私なりの見解をまとめたいと思います。

そもそも仕組債って何? 普通の債券とは違うの?

仕組債にはさまざまな種類がありますが、現在、広く販売されているのはEB債(他社株転換可能債)と呼ばれるものです。これは参照している企業の株価が一定のレンジに収まっている時には、国債などよりは高いクーポン収入が得られる一方、一定のレンジを超えて株価が下がってしまうと、額面ではなく、その下がった株式が交付される仕組みのため、大幅な損失を被ることになります(売却しなければ評価損)。逆に一定のレンジ以上に株価が上昇した場合には早期償還されてしまい、その株価の上昇を十分に享受することはできません(機会損失)。ですから、投資家にとっては下がっても上がってもうれしくない仕組みとなっているのです。

したがって、その参照企業の株価が今後、大きく変動しないとみている投資家にとっては良い投資対象となり得るかもしれませんが、上にも下にも大きく変動する可能性があるとみているのであれば、大きな損失(評価損)および機会損失を被る可能性があり、適切な投資対象とは言えません。ここまで読んでいただくとお分かりの通り、仕組債は表面上「債券」に分類されますが、実際には大きなリスクを伴う投資商品なのです。まさに「羊の皮をかぶった狼」なのです。