金融機関がいま住宅購入を勧める背景

金利がこれから上昇の一途をたどるかどうかはともかく、それをネタにして「家を買うなら今のうち」という声が、少し高まってきたように思えます。

「低金利の恩恵が受けられるうちに家を建てたいのであれば、今すぐに行動しましょう」(某住宅メーカー)。

「変動金利型ローンの利用を考えている人は、焦る必要はありませんが、いつ金利上昇の波が短期金利に及び、いつ変動金利型のローン金利が上がるか分かりません。定期的に金利動向をチェックして、機動的に動けるようにしておくのがいいでしょう。その一方、固定金利型のローンを利用したい人は、早めに行動したほうがいいかもしれません」(某大手銀行系不動産会社)。

このような意見を耳にする機会が増えてきました。では、本当に今が家の買い時なのでしょうか。まず住宅ローンを貸す側である銀行の立場を考えてみましょう。

東京商工リサーチというリサーチ会社が国内106銀行の2022年3月期決算時点における預貸率を調べ、その結果を公表しています。それによると、2022年3月期の貸出金合計は589兆9628億円で前年比2.8%増であるのに対し、預金合計額は952兆6001億円で前年比3.2%増となりました。その結果、預金と貸出金の差額である預貸ギャップは362兆6373億円になり、調査を開始した2008年3月期以降、過去最大になりました。

これが何を意味するのかというと、銀行にはたくさんの預金が集まっているのに、その貸出先がないということです。

銀行は、預金を通じて集めた資金を、企業や個人に貸し出して、その利ザヤを稼ぐ商売をしています。預貸ギャップの増加による預貸率の低下は、銀行にとっては仕入れ在庫の増加を意味します。それは運用難と同義であり、銀行の収益力低下につながります。したがって、銀行からすれば住宅ローンでも何でも、とにかくお金を借りて欲しいという意識が強まります。

こうしたなかで世界的にインフレ懸念が高まり、欧米の中央銀行が金融緩和を止める意向を見せ始めたことで、「日本の超低金利もいよいよ終わりつつあるのではないか」という雰囲気が広がってきました。何とかして貸出を増やしたい銀行からすれば、「金利が上がらないうちに住宅ローンを組んで家を買いましょう」と言いたくなるのも当然といえば当然です。

しかし、私たちはこれから先、本当に家を買うのが正しいのかどうかという点を、しっかり考える必要があります。