私も40代の後半に差し掛かり、友人から「最近、親の耳が遠くなってきた、会話がワンテンポ遅れるようになった」という話をよく耳にするようになりました。とはいえ、まだ日常生活に大きな支障がない場合には、相続などの家族でしなければならない大事な話を先送りしている人が多いようです。

ただし、先送りをしている間にも、親はどんどん年老いていきます。年老いて「ピンピンコロリ(PPK)」と亡くなるケースは限定的であり、亡くなるかなり前から認知機能が低下してしまうケースのほうが多いのではないでしょうか。もちろん、亡くなったときに発生する相続は大きな問題ですが、認知機能が低下し、認知症になってしまうことのほうが長期にわたるため、精神的にも金銭的にも辛い状況と言えるかもしれません。

今回は、この認知機能の低下(認知症)が資産管理および資産運用に与える影響について、お話ししたいと思います。

そもそも、どのくらいの人が認知症になるのか?

まず初めに、今どのくらいの人が認知症になっているのか、将来はどうなるのかを確認したいと思います。

厚生労働省の研究(「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」、2011年度~2012年度)によると、認知症の有病率は年齢とともに高まり、85歳以上になるとそのペースが一気に加速します。特に女性の有病率が高く、80~84歳で43.9%、90~94歳では65.1%にもなります。男性は90~94歳で49%ですから、男女間で15%以上もの大きな差があります。この理由は明確にはなっていないようですが、一般的に、変化に乏しい生活を送る人が認知症になりやすいと言われています。

では、将来、この認知症の有病率は改善するのでしょうか? これまでは症状の進行を遅らせる薬しかありませんでしたが、現在、さまざまな研究が世界中で行われており、治療薬が出てくるのもそう遠い未来ではないかもしれません。実際、2021年には、エーザイと米バイオジェンが共同で開発したアルツハイマー型認知症新薬「アデュヘルム」が米当局から承認されたことが話題になりました。しかしながら、認知症の治療は非常に難しいと言われていますし、そもそも高齢者の数が増えていますから、残念ながら、今後もかなり多くの人が認知症で苦しむことになるでしょう。

認知症になれば、社会的な活動が難しくなりますが、金銭面にも深い影を落とします。以下では、資産管理と資産運用に分けて、その影響を見ていくことにします。