バフェットも警鐘を鳴らすSPACのリスク
すでに軽く触れたが、SPACは個人投資家にとっても魅力的な制度だ。通常なら株式未公開のスタートアップへ少額から投資できるうえ、スタートアップが急成長すれば大きな利益を狙うこともできる。米国では、SPACの株式は1株あたり10ドルで公開。その後市場での価格が公開時を下回ったとしても、合併前であれば1株10ドルで償還することが可能と万が一のフォローも用意されている。
しかし、SPACを通じた安易な投資の危険性を指摘する声は多い。著名投資家ウォーレンバフェットは2021年、同氏が率いるバークシャー・ハザウェイの年次総会でSPACを「厄介者」と表現した。米国のSPACは未公開企業の買収さえ成立してしまえば、運営者が多額の報酬を受け取れるスキームとなっている。そのためバフェットは、株主が不利となる莫大な金額で買収が行われてしまう危険性に懸念を示したのだ。
さらにバフェットは「ギャンブルと同じ」と、SPACの株式の投機性も批判している。現にSPACの設立がブームとなった米国では、スタートアップと合併して株式市場で一時的に人気を集めた後、株価が暴落する銘柄が相次いでいる。
例えば、テスラに次ぐ新興EVメーカーとして期待されている米ニコラは、本格的な販売に至っていないにも関わらず、株価が公開時の6倍以上となる約65ドルまで暴騰。しかしその後、当初誇示していた燃料電池などの先端技術が虚偽であったと米司法省から告発され、10ドル付近(2022年1月現在)にまで値を落とした。
また、EVピックアップトラックの製造を掲げている米ローズタウン・モーターズもトラック生産前から人気銘柄となり、上場直後の3倍となる一時30ドル付近まで値を上げた。だが、投資会社から予定受注台数を水増ししているとの不正疑惑を指摘され、公開時を下回る約3ドル(2022年1月現在)まで暴落した。
投機的な値動きの一因として、SPAC運営者や上場を目指す未公開企業が、投資家に対して過剰な成長ストーリーを喧伝してしまうことが挙げられる。米国の一般的なIPOでは業績見通しなどを開示できない決まりとなっているが、SPACによる上場ならば可能だ。
SPACの株式はスタートアップ買収後、1株あたり10ドルの償還を受けることができなくなる。通常のIPO銘柄と同様に上場時よりも値下がりする可能性はゼロではない。そのうえ買収されるスタートアップは、創業直後で売り上げがほとんどたっていない企業が大半。株価を支える要因は成長への期待だけなのだ。