「現状維持バイアス」を活用している米国や英国

ヒントになるのが、米国や英国の事例だと思います。米英では行動ファイナンス(行動経済学)というお金に関する心理学のような学問から得られた知見を、実際に活用しています。その活用の代表例が「現状維持バイアス」を逆手に取る仕組みです。

皆さんは、パソコンなどの電子機器のセッティングを初期状態から変更しますか? 何らかのこだわりがあって自分流に変更する人もいると思いますが、電子機器に詳しくない人は、初期設定のままの状態で使用していると思われます。

このような「今のままでいいんじゃない?」といったバイアスは誰もが持っている特性ですが、米英の確定拠出年金ではこの特性を活用し、自分から運用商品を何も選択しなければ、自動的に投資信託に配分されるような初期設定になっています。多くの人は「現状維持バイアス」にとらわれているため何もしない場合が多く、いつの間にか自分の老後資金が投資信託で運用されていることになります。

一方の日本では、初期設定が元本保証のある預貯金や保険商品になっていることが多く、結果として多くの人のお金が預貯金などに流れ、減らないけれどほとんど増えないという状況になっています。さらに悪いことに、今後は増えないばかりか、インフレによって実質リターンがマイナスになる可能性すらあるため、問題はより深刻になるでしょう。

仮に日本が米英のように初期設定を「投資信託で運用する」にしたら、皆さんはどう思いますか? おそらく「損失する可能性のある投資信託に、強制的に配分させるのは問題なのではないか」といった批判が聞こえてきそうです。でも、嫌ならば手続きをしてやめることもできますので、決して強制ではありません。単に初期設定が変わっただけなのです。

このように、人間の「現状維持バイアス」をうまく活用すれば、資産運用をする人を増やすことができるのです。