老後資金の「取り崩し方」という問題

アメリカでは、日本のように「ふつう」がありません。多人種、多国籍、多文化、多バックグラウンドの人々が住んでいますから典型的な例というのがないのです。

それでもあえて「一般的な労働者がリタイヤして寿命を全うする例」というのを無理につくりだすとすれば、こんなかんじでしょうか。

「20代で働きはじめ、30代で本格的に老後資金を貯めはじめ、60代後半でリタイヤし、その後90歳くらいで寿命を全うする」

90歳というのは現在の平均寿命からすると長いように見えますが、ファイナンシャルプラニングでデフォルトで使われる予想値は95歳程度が多いです。甘く見積もりすぎて、老後資金が枯渇するのを避ける意味も含まれています。この「典型例」を考える場合、30数年の資金準備期間があった後、30数年の資金使用期間があることになります。30年貯めて、30年かけて取り崩しながら使うわけです。

一般的な傾向として私たちは老後の備えについて、その資金準備期間に注目しがちです。「老後資金は一体いくらあればいいのか?」「老後資金の準備はどうするか?」「老後に備える投資策は?」などという見出しの記事やニュースをよく見かけます。しかしながら、実は貯めるだけ貯めてリタイヤしたらそれで万事よし……というものではなくて、実はその後の資金を使うフェーズでのプランニングもとても大切です。

アメリカでは、第二次大戦後の人口爆発(ベビーブーム)の頃に生まれた人々のことをベビーブーマー(1946年から1964年生まれ)と呼びますが、この人々の第一弾がリタイヤし始めたのが10年くらい前です。その後ベビーブーマーが順次リタイヤメントに入るにつれ、貯めてきた老後資金からの現金確保のしかた、つまり口座からの現金の引き出し方というものに焦点が当たるようになってきました。

一方、同時にこの10年間にはロボアドバイザーも登場し、人であるアドバイザーに変わってプログラムが投資を引き受けるようになってきました。ロボアドバイザーサービスが充実するに従い、投資による“蓄積フェーズ”に関してはかなりの成熟を見ていると感じます。

さらにターゲット・デート・ファンドも、ものすごい勢いで市場シェアを伸ばし、低コストインデックスファンドやETFを使っての長期パッシブ投資が加速度的に根付きました。多くの人が、このやり方で自動積立+自動運転をしています。広く一般の人がシンプルに安定的に長期投資できる枠組みができたわけです。