幾多の困難を乗り越えてきた米国。その強さの根源にあるもの

さて、ここまで見てくると、米国市場の強さが改めて感じられるわけだが、一方で昨年2月~3月の急落(いわゆるコロナショック)も、200年以上の歴史を持つ米国市場が直面してきた幾多の困難の一つに過ぎないことが分かる。米国市場は、その困難をすべて乗り越えてきている。その反発力、言い換えれば、レジリアンシー(下方抵抗力)は半端でないものがある。その強さの真因を探ってみよう。

投下資本から利益を出す効率性

まずは、米国企業の特長として、投下資本利益率(ROIC)が高いという特徴がある。2020年の米国企業(金融除く)のROICは、コロナ禍の影響が残る中、平均で10.6%。日本の6%前後と比べると、大きな開きがある。ROICが高い企業は、株価も高くなるという強い相関がある。ちなみに、GAFAMの中では、直近でマイクロソフトが30.8%、グーグル擁するアルファベットが36.0%、アップルが30.5%。売上がしっかり伸びて、少ない投下資本で利益が上がれば、株価が高くなるのは、至極当然なのである。

利益還元のカルチャー

また米国企業の特長として、利益還元のカルチャーというものがあげられる。しっかり利益を上げて、その利益は手元に抱え込まず、お金を投下してくれた人に返す。これは、マックス・ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の中でも述べられているが、米国文化に根差したものと言えよう。

また経営陣・社員と株主の利益が同じ側にあるということも上げられる。米国では、経営陣や社員に株式オプションや株式を報酬として与えることが、広く行き渡っている。したがって、その会社に投資した投資家と同じ側で、否が応でも、株価を上げたいというインセンティブが強く働くのである。

新しいビジネスが生まれやすい風土

また米国では、新しく次々に企業が勃興してくる。そのリスク・キャピタルを提供するエンゼルは、卵の頃から、もっと言えば卵ができる前から、資金を提供し、また育成にも深くかかわる。日本のように、ひよこになった頃に、ようやく資金を投下する、それもある一定の利回りを保証させるような“せこい”ことはしない。このようにして生まれてきた企業が、ガレージで始まったアップル、マイクロソフト、アマゾンであり、近くではフェイスブック、グーグルである。そして、あっという間に世界を制覇する。今でも、次々に新しい企業が登場してくる。Airbnb、ウーバー、テスラ……と枚挙にいとまがない。残念ながら、日本ではこうした企業は見当たらない。

さかんな企業の新陳代謝

一方で、米国では、企業の合併は盛んで、倒産も多いので、上場企業の数は減っている。いまや日本の上場企業数の方が多い。また主要部門の切り離し、売却も、合理的かつ当たり前に行う。それらは、米国経済や産業構造が柔構造で、経済に新陳代謝が効いて、活性を保てることを示している。コロナショック、リーマンショックなどの経済危機の時でも、レジリアンシー、アニマルスピリットが発揮される。

ルール違反に対する、厳しい制裁

米国では社会的な不正行為を行った場合の制裁は、ことのほか厳しいことは特筆しておきたい。

例えば、リーマンショック時の住宅抵当証券販売での不正に対しては、主要な銀行に1兆円を超える罰金を、フォルクスワーゲンのディーゼルエンジン排ガス不正問題では、総額330億ドル(3兆5000億円)もの罰金を科した。2016年に無断口座開設を行ったウェルズ・ファーゴに対する資産上限制限はいまだに解除されていない。このように実に厳しいため、企業は襟を正してビジネスをせざるを得ないのである。結果、企業行動に規律が働く。数百万円程度の罰金で済んでしまう、ぬるま湯的対応で、企業不正が続く日本との大きな違いだ。

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昨年のバークシャー・ハサウェイの株主総会で、バフェットは米国の建国以来の歴史を紐解き、米国企業の繁栄はこれからも長く続く、そして「Never bet against America.(“アメリカはだめだ”のほうへは賭けるな)」と言ったが、この言葉を我々は重く受け止めるべきだ。

時折、“押し目”の局面はあるかもしれない。しかし長期で見れば、米国株はこれからも着実に上がっていくだろう。