「国内公募投資信託の本数が多すぎる」と、長年言われてきました。

事実、投資信託協会のデータによれば、2020年12月末の段階で日本には5913本(前年比▲121本)の投資信託があります。最近、残高の少ないファンドを統合するなどの動きが出てきているのは良い傾向だと思います。

ただ、四半期ごとに発表される日銀の「資金循環統計」によりますと、日本人の保有する投資信託の残高は2021年3月末で約84兆円。金融資産総額約1946兆円のわずか4.3%でしかありません。

日本の場合、いったいどうしてこんなにも金融資産に占める投資信託の保有割合が低いのでしょうか? 私は情報量の絶対的な不足と、情報の「見える化」が足らないからだと考えています。

YouTubeの動画配信で痛感した、圧倒的な情報量がもたらす恩恵

セミナーや講演等で投資家の方々と接していますと、未だに純資産の残高が多い投資信託が良い投資信託だと思い込んでいる個人投資家が多いことに驚かされます。

例えば以前こんな例がありました。

コロナ前のセミナーにおいて、60代後半と思われる男性個人投資家の方からセミナー終了後にこのような質問がありました。

「我々は純資産ランキングベスト10から投資信託を選べばいいんですよね?」

私が「いえいえ、必ずしもそうではありませんよ。ご自身のライフプランに適した商品を……」と言いかけますと、「だって我々にはそれ以外に判断材料がないじゃないですか!」と強い口調でおっしゃったのです。他のお客様も何人かが頷かれておられました。

確かに、各金融機関は自社で取り扱っているファンドの中から「今月の売れ筋ランキングトップ10」とか「残高トップ10」「値上がり率トップ10」を一覧表にしてお客様にご提示しています。

しかしこれらを見せられても、お客様は自分に何が一番適しているのか、まったく判断することができないと思います。

私はここ5年ほど、YouTubeで毎月2回動画を配信していますが、最近ではDX(デジタルトランスフォーメーション)が進み、①いつ ②どこで(エリア) ③誰が(何人・年齢層・男女別) ④どのくらいの時間をかけて(何分間)、視聴してくれたかが手に取るように分かります。さらには、どこから私の動画にたどり着いたかまでも明確です。

「へー 私の動画視聴者は神戸市や横浜市の方が多いんだ」
「意外にも40代後半から50代前半の方が視聴してくれているんだね」
「男女比は一緒ぐらいだな」
「やっぱり4分間で観るのをやめている方が多いな」
「このHPから私の動画にたどり着いてくれたんだ」

などと、簡単に分析することができるのです。このようなデータを受けて、毎回、動画の内容やコメントを適宜微調整しています。

投資家にとってためになる、投資信託「見える化」データを作るならこんな切り口

これを投資信託の世界でも実現することはできないものでしょうか?

一つの商品に対して、販売会社が数十社あるため、なかなかデータの一元管理をすることが難しいのもよく理解できます。

そんな中、直販中心の独立系投資信託会社「さわかみファンド」は、以前から自社ファンドを購入している個人投資家のデータを公開されています。独立系の「さわかみファンド」だからできることも多いとは思いますが、ひょっとしたら、ネット証券各社なら簡単にできるかもしれない……とも思うのです。

お客様のプライバシーには極力配慮しながらも、例えば以下のような情報を「見える化」することはできないものでしょうか?

  • 1.「保有顧客数」とその前月・前週比増減&推移
  • 2.「定期定額購入契約者数」とその増減&推移
  • 3.「一顧客あたり」購入金額・回数
  • 4.「年齢層別(5歳刻み)」顧客数・購入金額・保有金額・保有期間
  • 5.「エリア別(都道府県別・都市別)」顧客数・購入金額・保有金額・保有期間
  • 6.「男女別・家族構成別」顧客数・購入金額・保有金額・保有期間
  • 7.投信各社HP「アクセス数」ランキング(一つ一つの投資信託のどのページの閲覧数が多いのか)
  • 8.年齢層別・男女別・地域別・時間帯別・曜日別HP「アクセス数」ランキング
  • 9.どんなタイミングで解約する投資家が多いのか(下落時or上昇時など)
  • 10.上記すべてにおける3ヶ月前・半年前・1年前・2年前・3年前……10年前という時系列での比較
  • 11.分野別信託報酬ランキング&保有者数・保有金額の相関性

など。
上記のポイントを明確にし、しかもそれをランキング化する――こうした多様な切り口からのデータを公開し、情報の「見える化」が今以上に大きく進めば、透明性が高まり、個人投資家の判断材料も増え、投信市場に参加する個人投資家の人数もマネーも間違いなく増えるのではないかと思います。

1000兆円を超えてきた預貯金から、大きくマネーが投資信託に流れる「キッカケ」になるのではないかと思うのです。