就職、結婚、マイホーム購入、そしてそこに横たわる長期資産形成……お金の悩みはライフステージごとに発生し、変化するもの。それが制度設計から手続きの在り方まで根本的に異なる海外だとしたら、その大変さは想像を絶するものでしょう。

今回登場する岩崎淳子氏は、米国・ロサンゼルスで、そんな悩める在米日本人をFPの立場からサポートするという独自のFP業を展開しています。

自身も渡米直後、お金に関して「何事も自分で決めなければならない」というプレッシャーに押しつぶされそうな日々を過ごし、その経験がきっかけで、かつての自分のような人を助け、かつ米国のシステムのなかでの家計設計や資産形成のサポートを行うべくパーソナル・ファイナンシャルプランナーの道を歩むようになったのだと言います。

そんな岩崎氏の取り組みと、米国のFP事情について伺いました。

お話を伺ったのは……

 
Smart & Responsible代表
米国公認会計士
パーソナル・ファイナンシャル・スぺシャリト

岩崎淳子(いわさき じゅんこ)

マーケティング戦略やアナリスト業務を経験した後、2000年に夫の転職を機に米バージニア州へ移住。子育てをしながら米国公認会計士、パーソナル・ファイナンシャル・スぺシャリトに合格。大金持ちでないからこそのプラニング・バランスのとれた家計システム・人任せにせず自分で考える姿勢をモットーにプラニングサービスを提供中。聖書をこよなく愛するクリスチャン。現在は米カリフォルニア州在住。著書に『お金が勝手に貯まってしまう 最高の家計』(ダイヤモンド社)。フィナシーでも現在、連載「LA在住FPが綴る、金融大国アメリカのリアル」を執筆中。

自己責任の国・米国で直面した“お金の壁”がFPを目指したきっかけ

——FPになったきっかけについて教えてください。

夫が米国の大学で研究者のポストを得たことをきっかけに、米国のバージニア州に移住することになったんです。夫は全力で仕事に打ち込み、家計全般は私が担当することになりました。

しかし、保険の選択や確定申告までをすべて自分、なおかつ膨大な選択肢のなかから選ばないといけないという現実に直面しました。

一番衝撃的だったのは、夫が働き始めた大学で利用できるベネフィット(福利厚生)パッケージの内容を決めるときです。いきなり分厚い資料を渡されて、その中から何種類もある生命保険、健康保険、リタイアメント積立制度などのサービスを、定められた期限で決めなければいけませんでした。実は後からでも変更できたようなのですが、当時はそれすら知らなかったので大変なプレッシャーを感じたのでした。

大体のことは勤め先や自治体が代わりにやってくれる日本の仕組みに慣れきっていた私は、ハンマーで打たれたような衝撃を受けたんです。

一人では手に負えないので夫にも協力するよう努力してもらいましたが、夫はお金の管理に向かないようでした。自分もそうですが、人は興味のわかないことは苦痛で、ストレスがたまるものです。

その経験がきっかけとなり、「それなら興味が持てるように学んでみよう」と、私はお金について様々な勉強するようになりました。そうしていくうちに、私と同じように渡米先で“自分で決める”ことに悩む人を助けたいと思うようになったんです。そこで、個人の家計に寄り添うパーソナル・ファイナンシャルプランナーになろうと決意しました。

——聖書をこよなく愛している、とプロフィールなどで書かれています。そのことは、FPを志すうえで影響はあったのでしょうか。

FPになろうとした当時、「現世的なお金というものを取り扱う職業になって、本当にいいのだろうか」という葛藤がありました。なにしろお金は、この世では重用されていますが、信仰を持つうえで理想とする神の世界には似つかわしくないとも解釈されているからです。しかし、それに関して相談を受けていただいた牧師さんは、逆に背中を押してくれたんです。

「聖書には“飢饉に備えて蓄え、飢饉の時に計画的に供出”する創世記のヨセフの話があります。お金も神から託されたリソース。この世には託された財の責任を負う人物がいて、あなたはその人を助けられるのだから、迷わずお進みなさい」と言われました。

その体験から、お金にとらわれるのではなく、かえってお金から自由になるために賢くお金をマネージすることの大切さを知り、この点においての家計アドバイスを通じて人を助けるという今の活動に至りました。