生産者の攻めの投資が結実

サンデーサイレンスの種牡馬としてのケタ外れの成功は、社台グループの「強い競走馬作り」への情熱がもたらしたと言えるでしょう。日本の競走馬生産のトップリーダーである社台グループは、サンデーサイレンスを導入する前から馬への積極投資を積み重ねていました。

競走馬の生産は、製造業との共通点があることは否めません。牧場のかわいい仔馬は実は“商品”でもあり、種牡馬や繁殖牝馬は仔馬を生産する、ある種の“機械”に置き換えられます。製造業であれば優れた機械を導入すると、生産性や品質の向上が期待できるでしょう。

一方、優秀な競走馬は優秀な競走馬だった両親から生まれる確率が高く、種牡馬や繁殖牝馬への投資が欠かせません。しかし、生き物ゆえに“不確実性”は常につきまといます。投資に対する見返りが期待外れな場合もあります。繁殖牝馬が不受胎だったり、せっかく生まれた仔馬が死んでしまったりすることもあるのです。期待外れどころか、損失を被るケースも多々あるでしょう。ただし、粘り強く投資を続けていると、思わぬハイリターンを得る可能性も秘めているのです。

競走馬の生産は、一般的にハイリスクとされる株式投資などと比較しても、よりいっそうハイリスクな投資といえます。しかし、社台グループはそのリスクと向き合い、失敗と成功を繰り返しながら、馬で得た利益を次の競走馬生産への投資に充ててきたのです。

馬への投資の循環の中で少しずつ利益が大きくなり、購入できる種牡馬や繁殖牝馬のレベルも少しずつ向上させていきました。そうした地道な取り組みの結果、名馬サンデーサイレンスの購入というチャンスが巡ってきたというわけです。

ただし、高額で輸入された種牡馬が成功するか否かは、産駒がデビューするまで分かりません。成功には運の要素も否定できないでしょう。そのことは、サンデーサイレンスの成功後に鳴り物入りで日本に輸入された欧米の名馬の多くが、結果を残せなかったことからも分かります。けれども、多くの失敗を経験してきた生産者だからこそ果敢な投資を続け、見事に驚異的な成果を上げることができたのではないでしょうか。