7月の3連休が明けた21日、内閣官房から高市早苗政権がこれから進める経済政策やその支援策をまとめた「成長投資を促進するための金融戦略」(新金融戦略)が公表された。これは岸田文雄政権時代に議論されていた資産運用立国プランの具体策を引き継いだものだが、実は裏側で一時、策定自体が危ぶまれていた。
というのも、資産運用立国プランは岸田政権の「遺産」で、自民党の総裁選で2度にわたって対立候補を支援した岸田元首相と距離を置く高市首相が横やりを入れる恐れがあったからだ。
新金融戦略は内閣官房で取りまとめられたが、その実務を担ったのは金融庁などの人材だ。彼らは高市政権が掲げる「日本成長戦略」への貢献を強調することで資産運用立国プランの存在意義を示しつつ、これまで温めてきたアイデアを新金融戦略に盛り込んだ。
名称や政権での優先順位は変わったが、資産運用立国プランは生き残った。与党内で生じたいわば“民権派”からの権力移行の経緯を踏まえつつ、資産運用ビジネスに携わる者が押さえるべきポイントを整理しよう。
地銀にフォーカス、地域の「要」と位置付け
新金融戦略を一瞥して感じることは、銀行業界への期待の大きさだ。同戦略では「銀行等には企業の成長を促し、資金・知見の両面で企業を支える中心的役割を担うことが期待される」とし、大型M&A向けなどでの大口融資の規制緩和や投資専門子会社を通じた出資で議決権100%まで株式保有を認めるとするなど銀行をリスクマネーの供給者と想定している。
以前の記事で駆け出しの記者時代に「役所の資料は脚注を読め」といわれたと書いたが、同戦略も資料の脚注(3ページや4ページ)には具体的なアイデアが列挙されている。これを見ると、銀行の資金力や目利き力を生かして国内経済の成長を促そうという政策意図がうかがえる。
銀行への期待は、特に地銀で強い。地銀を地域経済の「要」と評価し、「地域企業の価値向上と地域課題の解決に貢献できるよう、投資銀行機能、メインバンク機能、地域への貢献力等から成る地域金融力を強化する」とし、資金調達の支援を総合的に提供したり地域中核企業の価値向上を実現したりできるようにすると強い決意を語っている。
さらに、地方創生への貢献として街づくりに関わる取り組みに地銀の参画を促進するとし、金融庁と中小企業庁が共同で検討会を立ち上げると明記している。
金融庁の組織再編で誕生する銀行・証券監督局内の銀行二課の布陣も含め、地銀関係者は要注目だろう。
本命を“ソデ見出し”に 本音は文字数にあり!?
戦略のネーミングにも、当局の知恵と苦衷の跡が感じられる。正式名称は「成長投資を促進するための金融戦略― 資産運用立国のアップグレード ―」となっているが、ここでいう成長投資が、高市政権の日本成長戦略で挙げられた戦略17分野を指すことは明らかだ。新金融戦略は17分野に資金を提供するために必要で、その具体策として既存の資産運用立国プランをアップデートしている。
メディアの世界では記事に見出しを付ける際、「主見出し」と「ソデ見出し」に分けることがある(媒体によっては名称が異なる)。主見出しで核となるファクトを表し、ソデ見出にその評価や意義を込めるような使い方をする。
新金融戦略の場合、「成長投資を促進するための金融戦略」が主見出しで「資産運用立国のアップグレード」がソデ見出しになる。主役である主見出しは、高市政権が打ち出した成長戦略への貢献をうたい、脇役のソデ見出しで資産運用立国プランの出番を確保するという組み合わせになっている。
さらにうがった見方をすれば、「-」のマークやスペース部分を含めれば主見出しよりソデ見出しの方が文字数も多く、印象が強い。主客を転倒させることで、自分たちのメッセージを打ち出すという技量に感心する。
ただし、より多くの人目に付くと思われる概要版では文字の大きさを変えて主見出しを目立つようにしている。
こどもNISAに“言及ナシ”の背景
さらによく見てみると、新金融戦略には「こどもNISA」という言葉が1つもないことに気づく。「こども・子育て支援」という文言はあるが、27年1月にスタートするこどもNISAへの言及は全く見られない。
複数の関係者の間では、片山さつき金融担当相はこどもNISAをひどく嫌っており、金融庁の全ての資料や報告書からこどもNISAという言葉を消させたと囁かれている。これは同氏が子ども嫌いだからではなく、岸田元首相が率いる資産運用立国議連の提言が基になった制度という背景がありそうだ。
前述したように同元首相は自民党総裁選で2度、現首相の対抗馬を推した。ここまで来ると当人同士というより周囲を巻き込んだ関係となり、25年秋の総裁選で高市氏の推薦人に名を連ねた片山金融相としては「こどもNISAは推せない」となる。
そうした雰囲気を察してか、こどもNISAへのシステム会社の対応が大幅に遅れている。このため、27年1月のシステム稼働は困難で、ネット証券のように自社システムを持つ金融機関以外は、夏ごろまで紙ベースで口座開設の受け付けを強いられることになりそうだ。
目指すべきは豊かな家計か国力充実か
岸田政権の資産運用立国プランから現政権での日本成長戦略への変遷を眺めると、この国の権力が“民権派”から“国権派”に移行する流れが見て取れる。
資産運用立国プランの主役は家計であり、家計を豊かにすることを主目的に位置づけている。投資先を選ぶ際には、リターンが期待できるかが主要な判断基準とする前提があった。
一方、日本成長戦略では主役は国家で、国自体を強くすることが目的に据えられている。家計は、そのための資金源の一つと見なされている節さえある。
民意で選ばれた為政者が自らの信じる政策を実行するのは当然で、この国がどちらを選ぶかは結局、国民次第だ。その上で言えば、家計の資産と国の資産を混同するような議論には違和感を覚える。例えば、日本成長戦略会議(第4回)で、一部の委員が提出した資料に成長投資は増税ではなく「年金基金の国内資金供給の大きな増加」を含めた促進策を取るべきであるとか、「年金基金は国債を永続的に保有する主体であり、(国の)債務軽減となる」と記載されているのは、勤労者の年金資産を国の裁量で活用できるとも読め、危うさを感じる。
