2027年1月のこどもNISAのスタートまで8カ月を切ったが、SBI証券や楽天証券などのネット証券を除くと資産運用業界の関心は盛り上がりに欠ける。
販売会社には23年に廃止されたジュニアNISAで「当局にはしごを外された」との思いがある。システムの改修コストがかさむことや、投資上限が子ども1人に年間60万円、総額でも600万円と比較的小粒な点も、こどもNISAに消極的な要因だろう。
ここで注目したいのが、動物行動学において一部の動物に備わっているとされる「インプリンティング」という習性だ。生まれて最初に見たものを親と思い込み、その後を追いその行動をまねることを意味し、こうした習性はヒトにも見られるという(心理学の「愛着形成理論」がこれに該当する)。たしかに、ヒトは最初に口座を作った金融機関と長期的に取引し、資産形成を継続する傾向がある。
ヒトでのインプリンティング、最初に見た顔を記憶し、強い愛着を持つ
インプリンティング効果はオーストリアの動物学者、コンラート・ローレンツらが提唱した。彼はガンなどの鳥類のヒナが孵化後に初めて見た生き物に強い愛着を示し、まるで親鳥のようにその後を慕う行動を理論化。その功績で1973年にノーベル医学・生理学賞を受賞した。
鳥類とは別のメカニズムによるとされているが、先述の通りヒトにも同じような行動が見られる。心理学によればヒトは乳幼児の段階で主な養育者に強い愛着を形成する。その愛着は、①養育者との接触の初期(資産生成でいえば最初の口座開設か)に発生、②明示的なインセンティブがなくとも形成、③いったん形成されると長期にわたって継続――という特徴がある。
もちろん親子の絆に比べれば、投資家と金融機関の結び付きはもろいだろう。成人した後に他の金融機関から有利な取引条件を提示されれば、あっさり乗り換えられるケースも考えられる。
しかし、幼少期から顧客を囲い込み、強い愛着(=ロイヤリティー)を獲得すれば、その後のビジネスで有利な位置を占められそうだ。それは資産運用に限らず、住宅ローンや資産継承などでも同様だろう。
こどもNISA、SBI証券と楽天証券が先行 ゆうちょが追う展開
こどもNISAに話を戻すと、対面中心の販売会社の消極姿勢に対し、ネット証券では積極的な動きが目立つ。例えば、SBI証券の役員は「全力を挙げて口座を取りに行く」と鼻息が荒い。早い段階で顧客を囲い込めることにメリットを感じているのに加え、2029年3月までに証券口座を3000万件獲得との経営目標を掲げており、目標達成には「ブルーオーシャンである未成年の市場に飛び込むしかない」(同役員)からだ。
同社の証券口座は26年5月1日時点で1600万件に達したが、残り3年足らずで9割近くも伸ばすのは容易ではない。ジュニアNISAの廃止以来、手付かずとなっている未成年市場になだれ込むのは当然といえる。
同社に対抗し、楽天証券も力が入っている。プロジェクトチームの立ち上げを準備するなど27年1月の制度スタートに向けて余念がない。
ゆうちょグループも関心を示している。システム改修に関するコストへの懸念はあるものの、子育て世代への強みを背景にこどもNISAに高いポテンシャルを感じている。25年4月実施の「子どもの銀行口座開設に関する実態調査」(コズレ)によると、初めて子ども名義で銀行口座を開設した親の47%がゆうちょ銀行(郵便局を含む)で口座を作っているからだ。 返戻率の競争が厳しくなる学資保険を補完する意味でも、グループとしてこどもNISAに期待している面がありそうだ。
空中戦と地上戦で挟まれる地銀、中国地方で反撃ののろしも
ネット証券とゆうちょグループ、いわば空中戦と地上戦の両面で攻め込まれるかたちの地銀だが、こどもNISAへの取り組みに意欲を見せるところは少ない。
中部地方のある地銀にインプリンティング効果の話題を持ち出すと「その点は非常に気にしている」としつつも、「いまは証券子会社のビジネスモデルをどう立て直すかで手が一杯」と話す。
北陸地方の地銀も「投信の定期解約サービスに備えてシステム費が重くなる中、こどもNISAのために追加のコスト負担は難しい」という。
こどもNISAの導入でシステムの改修にどれほど費用がかかるかは、まだ見えにくいところがある。野村総合研究所によれば、同制度は、①利用できるが解約できない0歳から11歳の期間、②利用できて解約もできる12歳から17歳の期間、③新NISAのつみたて投資枠に移管される18歳以降の期間――の3つのフェーズに分かれ、各々に対応が必要なためシステム改修は「簡単な作業ではない」と説明する。
1人で年間60万円のビジネスで、制度がどこまで広がるか見通せない段階では、こどもNISA推進の旗を振るのは難しいだろう。
そんな中、中国地方の地銀には「こどもNISAに全力を挙げる」と語るところがある。自行のNISA口座を持つ顧客で子どもや孫のいる全世帯にアプローチし、「全ての子どもの口座獲得を目指す」という。そのためのキャンペーン予算も確保済みだ。
幼少期から口座を獲得できれば、生涯にわたる取引が期待できるうえに、贈与税が免除される教育資金贈与がこの3月で廃止されたことも、富裕層市場ではこどもNISAの追い風になるとみている。
地銀こそこどもNISA!貴重な若い世代を大切に育てる発想を
先日、戦後81回目のこどもの日を迎えた。我が国の子どもの数(15歳未満)は26年4月1日時点で1329万人と45年連続で減少している。子どもの数が減っているのは全国共通の減少だが、元々の人口が少ない地方ほどその影響は深刻だろう。
「だから」こどもNISAをやらないのではなく、「だからこそ」推進すべきではないか。地方再生の第一歩は教育にあるのではないか。母数としての子どもの数が増えるのがベストだが、それが難しいならば、貴重な子どもに資金を投入して質の高い教育を身に付けてもらうことだ。瀬戸内海に投じられた一石が、近隣地銀に波及することを願っている。

