金融機関の関係者を除外してKPIが達成できるか?
1月26日に金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」と「顧客本位タスクフォース」の合同会合が開催された。まず、事務局である金融庁より「安定的な資産形成の支援に関する基本方針(案)」(以下、「方針(案)」)及び「金融経済教育推進機構」(以下、「機構」)について説明が行われた後、各委員が意見や感想を述べた。目標とするKPIや認定アドバイザーについて多くのコメントが出されており、いくつかご紹介したい。
方針(案)にKPIとして掲げられた『令和10年度末を目途に『金融経済教育を受けたと認識している人の割合』が米国並みの20%となることを目指す」ことについては、複数の委員より、「認定アドバイザーだけで達成することは困難」との意見が出た。オブザーバーの全銀協からも、「その数値目標達成のためには、単純計算で、今後5年間で約1200万人(年間250万人程度)の認識を変える必要がある。一方、機構に業務移管する組織・団体(金広委・日証協・全銀協・投信協・金融庁)におけるイベント・セミナー等の受講者数は、近年、年間30万人程度となっており、今後、10倍近い規模の方への教育が必要となる」と具体的な数値を挙げたうえで、機構(認定アドバイザー)と既存アドバイザーとの協業の必要性を唱え、「彼らの役割分担等について整理させてもらいたい」と要望していた。
委員からも、「均質性、専門性の観点より、既存アドバイザーの活用が有効」、「利益相反の情報開示を徹底したうえで、既存アドバイザーを有効活用すべし」といったコメントがあったほか、「機構という箱を作っただけで金融教育が進むわけではない。まずは、既存の組織(既存アドバイザー)で何が出来て、何が出来なかったのか、出来なかった理由として何が足りていなかったのかを明確にしたうえで、アウトプットやアウトカムを設定すべき」との意見が出された。一方、「将来的には、利益相反の情報開示を進めて金融機関に従事している既存のアドバイザーを活用することを考えて良いと思うが、利益相反に係る情報が開示されても、(その情報を使って)適切な選択が出来ない人に対し、それが出来るように教育を施していこうというものであり、足元で、既存のアドバイザーを活用することは時期尚早である」との意見も出された。
方針(案)に記載の通り、認定アドバイザーは、「顧客の立場に立っていると謳いながら、特定の金融事業者や金融商品に偏ったアドバイスが行われているケースが見られる、顧客にとって誰が信頼できるアドバイザーであるかが分からない等の課題が指摘されている」ことを踏まえ、機構が、「一定の要件に合致し所定の審査を通過した者を、一定の中立性を有する顧客の立場に立ったアドバイザー」として認定・公表するものだ。政府は、現時点で「金融商品の組成・販売等を行う金融機関などに所属していないこと」、並びに「同金融機関等から、顧客に対するアドバイスの報酬を得ていないこと」といった認定要件を堅持している。よって、既存アドバイザーの多くを占める「金融商品の組成・販売等を行う金融機関等に所属している」方々の活用は控えたいのが本音だろう。だが、はたして、これまでの10倍近い数の方々に金融経済教育を施すに足る認定アドバイザーを確保できるだろうか。
士業が認定アドバイザーを務めるインセンティブが薄い
合同会合の事務局説明資料では、認定アドバイザーが有する資格例として、CFP,AFP、FP技能検定、証券外務員、投資助言・代理業者、銀行業検定等といった金融系のほか、弁護士等の士業や消費生活相談員など、生活全般に係るものまで幅広く列挙している。受講者が小学生から高齢者まで幅広い中、想定している講義内容が、NISA、公的・私的年金、生命・損害保険といった資産形成・運用に関するものから、金融トラブル、消費者教育、終活、成年後見制度、相続・贈与、遺言等とライフワークに係るものまで広く想定していることもあり、求められる資格も広範囲にわたっている。
これほど幅広い資格の保有者の中から認定するのであれば、相当の数が揃うかもと期待したいところだが、例えば、弁護士や公認会計士、司法書士、社会保険労務士などの高度な資格保有者が、低報酬が見込まれる認定アドバイザー業務に、本業の貴重な時間をどれほど割こうとするだろうか。また、彼らの中で、(金融経済)教育に係る経験やスキルを持ち合わせている方々がどれほどいるだろうか。なお、会合では、複数の委員より、「講義の対象先として、大都市より地方を、大企業より中小企業を重視すべし」、「フリーランスへのアプローチも重要」といったコメントも出ていた。全国・全企業の隅々にまで均質的に教育を施すとなると、多岐に渡る受講者の属性・ニーズに応じて、認定アドバイザーを揃えていくのは至難の業だろう。一つの解決策としては、インターネット環境下でのオンデマンド授業やオンライン授業の活用が考えられるが、対面授業と比べ、どうしてもきめ細かなアドバイスの提供は難しくなる。
「どの商品を選ぶべきか?」との質問に、「あとはご自分で!」と応じるのはナンセンス
また、「認定アドバイザーは、『どの商品を選べばよいか具体的に教えて欲しい』というニーズに応えることが出来るのか」との質問が委員よりあったところ、事務局は「それは、認定アドバイザーの業務範囲外」と回答していた。認定アドバイザーは、そうしたニーズのある方々に、「あとは自分で対処してください」と伝える事になるのか。それで、彼らは資産形成や資産運用の一歩を踏み出せるのだろうか。投資したいと思っても金融機関選びで悩み、ようやく選んでも口座開設手続きでつまずき、ようやく開設しても商品選びで再び悩み、結局、投資に至らないというケースも多いと聞く。認定アドバイザーのお陰で投資意欲が高まったとしても、ラストワンマイルの支援が欠かせないように思う。
全国・全企業の隅々にまで均質的に教育を施すとともに、ラストワンマイルを後押しするには、やはり、既存アドバイザーの活用は必須であろう。政府は、既存アドバイザーの利益相反に係る情報開示を徹底すること、当該情報の使い方を分かりやすく受講者へ指南することを前提として、既存アドバイザーにも金融経済教育を担わせるとともに、認定アドバイザーに良質の既存アドバイザーを紹介する仕組みを構築してはいかがだろうか。既存アドバイザーにも意欲のある顧客本位の方々は大勢いる。彼らが選ばれるようになれば良いのだ。