2021年3月3日、イーロン・マスクがCEOを務めるスペースX社は、開発中の巨大宇宙船「スターシップ」の無人飛行の打ち上げと着地を初めて成功させた。着陸直後に機体が炎上し、爆発することになったものの、月や火星への移住計画は着実に進んでいる。

2023年には、実業家の前澤友作氏を乗せた月旅行も計画しているスペースX社。その創業者であるイーロン・マスクは、米電気自動車メーカー「テスラ」のCEOとしても知られる。そのほか太陽光発電事業を展開する「ソーラーシティ」の会長でありながら、世界有数の電子決済サービス「PayPal」の創業メンバーでもある。幅広い事業で成功を収め、世界でも有数の資産家になった。

並外れた影響力を持つカリスマ経営者として、スティーブ・ジョブズとも度々比較されるマスク。前編では彼の生い立ちや展開する事業に迫りたい。

天才と呼ばれた少年は、アメリカに渡りIT長者に

イーロン・マスクが誕生したのは1971年。南アフリカ共和国の首都の一つ、プレトリアの裕福な家庭で生まれた。好奇心旺盛で、読書好き。特にSF小説など、未知なるものを扱うジャンルに強い関心を示したと言う。

その後、コンピューターとの運命的な出会いをきっかけに、10歳でプログラミングを学び始める。12歳には、自作のゲーム「Blaster」を開発。この頃から、地元では天才として有名だった。

高校を卒業する頃には「将来、起業したい」という想いを抱いていたというイーロン・マスク。「インターネット」「再生可能エネルギー」「宇宙」の3つの分野に可能性を感じ、自分が進むべき道であると、すでに意思を固めていた。

その実現場所として「アメリカに行きたい」と考えた彼は、まず母親の出身地でもあるカナダの親戚を頼って移住。オンタリオ州のクイーンズ大学に進学し、2年生の時に、奨学金を得て米国のペンシルバニア大学ウォートン校に編入した。そこでは、経済学と物理学の学位を取得。その後、米屈指の名門スタンフォード大学の大学院に進学した。

しかし、入学からわずか2日後に同校を退学。理由は、地域情報サイトの運営会社「Zip2」を、弟のキンバル・マスクと立ち上げるためだった。

大手新聞社の記事をサイトに掲載することで、大成功を収めたZip2。同社は後にPC大手のコンパック社に約3億ドルあまり(約300億強円)で買収され、マスク氏の手元には約2200万ドル(約22億円)もの大金が残された。まだ彼が27歳の時である。

若くして成功者となったイーロン・マスク。しかし、彼は満足することもなく1999年11月にはオンライン銀行「X.com」を設立。X.comは2001年に最大のライバル企業であったコンフィ二ティ社と合併。後に「PayPal」となった。

優秀な人材が揃っていたPayPalは急成長を遂げ、設立間もない2002年にeBayに買収される。そして、イーロン・マスクは1億8000万ドル(約200億円)もの大金を再び手にした。

こうして大富豪の仲間入りを果たしたマスクであったが、それは彼にとってのゴールではなかった。イーロン・マスクの大躍進は、ここからが本番である。