この人に聞きました
鈴木 一成 一成FP社会保険労務士事務所社会保険労務士・AFP

大手流通系企業で20年以上、企業年金制度・ライフプランセミナー・確定拠出年金に関する社内研修の講師を務める。53歳で社会保険労務士の資格を取得。2020年3月に定年(60歳)を迎えた後は勤務先から再雇用され、副業として社労士との“二刀流”で仕事を続けるR50世代のロールモデル的な存在。

最初のセミナーを55歳から50歳に繰り上げた理由

――鈴木さんの会社では、50歳時から「定年前」のライフプランセミナーを実施していると伺いました。50歳なら「定年までまだ10年もある」という捉え方もできますが、50歳になったら定年準備が必要ということなのでしょうか?

私の勤務先では20年近く、55歳の社員を対象に最初のライフプランセミナーを実施してきました。しかし、受講者の中から「もっと早くこういう話が聞きたかった」「今からでは準備期間が足りない」という声が上がり、2017年から50歳で実施するようになったのです。正確に言えば学齢51歳、同学年の人が全員50歳を迎えた次の年度ですね。

社員の中には20~30代からコツコツお金を貯めてきた人もいれば、「何とかなるさ」と老後の準備をしてこなかった人もいます。後者のタイプが55歳時のライフプランセミナーで“気付き”を得ても、定年までは5年間と間に合わせるには時間がないというわけです。

もう1つ、毎年の誕生月に日本年金機構から送付される「ねんきん定期便」の記載内容は、50歳を境に大きく変わります。50歳以降は「将来受け取る見込み額」が示されるようになり、定年後の生活設計がやりやすくなるのです。ライフプランセミナーには受講者各自のねんきん定期便を持参してもらい、それを基に将来の収入の試算を行っています。

定年後に向けて、キャリアと生活の両面から早めの準備が必要

――なるほど。今は定年退職者をめぐる環境も大きく変わってきていますから、早めの準備が必要というわけですね。

企業サイドからすれば、ライフプランセミナーの前倒しは、「50歳になったらそろそろ、自分のセカンドキャリアのプランニングをしておいてほしい」という意思表示でもあります。

私が新入社員だった1980年代には、ほとんどの企業が55歳定年制で、入社したら定年まで勤め上げるのが一般的でした。それが、2021年4月に高齢者雇用安定法が改正され、70歳までの就業機会確保が努力義務になり、本人が希望すれば70歳まで会社で働くことができる時代がやってきます。半面、今は早期退職制度がありますし、定年後も継続雇用や再雇用を選んだり、起業したり、フリーランスとして働いたりと選択肢が広がっています。老後の生活の柱となる公的年金の受給開始年齢も、今後は60歳から75歳の間で選べるようになります。

定年後についてはキャリアと生活の両面から考えていく必要があり、そういう意味でも早めの準備が欠かせません。50歳からの10年間で、しっかり準備しておこうという話です。50歳でのアクションが、定年後の人生にとって非常に重要になりますね。