「下落しても解約しない」が原則――ただし、減額や積立中止を勧めたケースも…
前ページの2ケースでお伝えしたとおり、投資では、「大幅に値下がりした局面でも解約しない」を肝に銘じて、余裕資金で投資をすることが重要です。また、余裕資金は預貯金で寝かせるだけではもったいないので、使える制度をフル活用して資産運用を始めたほうがいいでしょう。ただし、何事も原則通りにはいかないもの。中にはこんなご相談もありました。
個人事業主として映像制作の仕事をしているCさん(35歳男性)は、ロケに行けないことから仕事が激減。これまで安定的に仕事ができていたため、節税目的で満額の6万8000円ずつiDeCoで積立をしていましたが、今回は、「仕事減少時に引き出せないことに不安を感じた」といいます。そこで、「iDeCoの場合、積立を停止して運用管理者(新たな掛け金を積み立てず、それまでに積み立てた資金の運用だけを行う人)になることもできますが積立再開にはコストや手間がかかるので、最低金額の5000円まで減額して積立を継続してはどうでしょう?」とアドバイスをしました。今後しばらくは減額して手元資金を多めに確保しながら、来年以降にまた増額しようと考えています。
公務員のDさん(43歳女性)は、投資信託とロボアドバイザーで投資をしており、5年以上の投資経験を持っています。ところが、「長期投資の基本ルールは知っているし、余裕資金もあるのだけれど、下落時には大きな不安を感じた」といいます。資産の一部を現金化しようと思った時に選別の基準になったのは、運営者の顔が見えるかどうか。運営者からこまめに熱いメッセージが届く独立系投資信託はコロナをきっかけに信頼が増したのに対して、顔が見えにくくて不安を感じたロボアドバイザーについては新規の積立をやめる決断をしていました。
投資に何を求めるかは人それぞれですが、感情的なつながりや応援したい気持ちが投資の原動力になっている人にとっては、不安な時にどう寄り添ったかはとても重要だと感じました。後日、Dさんは相場が再び落ち着きを取り戻したのを受けて、信頼できると感じた投資信託の積立を増額したそうです。
相場下落時にこそ、不安に寄り添うFPの存在が役に立つ
今回のコロナショックで感じたのは、「大幅下落の局面を乗り切るには、手元資金の余裕と、投資対象への信頼感が必要」ということ。続けた方がいいとは分かっていても、手元の現金が不足したり収入が減少したりすれば、現金化せざるを得ないこともあります。また、ピンチの時に投資家に寄り添い、力強いメッセージを送り続けることが、信頼感につながることも実感しました。
FPとして私が意識したのは、どんな目的で投資を始めたのかを思い出してもらうことでした。すぐに使う予定のない老後資金目的のお金であれば、一時的に相場が下落しても、次の値上がりを待つことができます。当面の生活に困らない預貯金も確保できていれば、慌てて解約する必要はありません。
「分かっていても不安」というときにこそ、心に寄り添い助言するアドバイザーの存在が求められるとあらためて実感しました。