まさか、あの株が下がるなんて……(30代・証券)

関西で勤務していた頃の出来事です。お客さまの事務所で一緒にテレビを見ていたのですが、そこに映っていたのはヘリコプターから撮った津波の映像。東日本大震災が起こったとき、私は商談の真っ最中だったのです。

資産運用の相談で訪問したのですが、どんどんと津波が押し寄せるテレビの映像に釘付けで、とても提案どころではありませんでした。

震災当日の金曜日は日経平均株価が大きく下がって終わったので、月曜日も引き続き下がる可能性についてだけ話して帰りました。しかし、週末のニュースで原発事故や津波や地震の状況が報道され、地震による被害の大きさはもとより、原発事故にまで発展した震災被害の大きさが明らかになっていきました。

そのお客さまは、配当目的でたまたま東電と関電を保有されていました。私はその3日間の情報を基に、月曜日の朝一番で電力株の売りを勧めました。

3月期末前で配当取直前のため売却を躊躇されていましたが、お客さまは最終的に売却を決意されました。

このとき、頂いたのが「あの時、売却して本当によかった。まさか東電の配当がなくなると思わなかったし、一人だったら決断できなかった。ありがとう」という言葉です。証券会社に勤めていて良かったと心から思ったひと言でした。

あとになってみれば当然のように思える株価の推移も、事態の渦中では簡単に推測ができないものです。顧客の反応というものは、えてして損をしたときに偏りがちですが、こうしたひと言をいただけると報われた気持ちになりますね。(編集部)