完璧でなくてもいいと気づいて

「私も酒蔵のことで頭がいっぱいで、穂香さんを叱ってばかりだったわね。請求書の金額間違いは確かに困ったけど、あんな言い方をする前に、もっとあなたのことを知るべきだった。本当にごめんなさい」

「お義母さん……」

「慣れない土地に来て、よく頑張ってくれていたのにね。ありがとう、穂香さん」

穂香の胸がじんわりと温かくなった。

「私も、早く仕事を覚えたくて無理をしていました。何でも1人できちんとやらなきゃって思って、から回ってしまって……」

「全部1人で抱え込む必要はないの。私なんて40年もやってるのに、いまだに失敗するんだから」

月江は猪口を置き、穂香に微笑んだ。

「元気になったら、また一緒に頑張りましょう。困ったときは遠慮なく相談してちょうだい」

「はい。これからは、ちゃんと頼らせてもらいます」

穂香も自然と笑顔になった。

ふと月江が夜空を見上げた。

「それにしても、きれいな月ね」

「そうですね。私、十三夜のお月見は初めてです」

「十五夜は満月だけど、十三夜は少し欠けた月を楽しむのよ。昔から親しまれてきたお月見なの」

返事をしながら穂香も顔を上げた。

確かに月は完全な丸ではない。それでも、澄んだ夜空に浮かぶ姿は十分に美しかった。

今までの自分は、何事も完璧にできなければ意味がないと思い込んでいた。だが、失敗しても、それまでの努力が消えるわけではない。できないことがあれば、誰かに助けてもらってもいい。完璧じゃなくても、不完全でもいいのだ。

そう考えると、胸につかえていたものが取れた気がした。

「お義母さん、また来年も一緒にお月見したいです」

「あら、嬉しいわね。今度はお茶菓子も用意しましょうか」

2人は顔を見合わせて笑った。庭の木々が夜風に揺れ、穂香の手元から玉露の香りがふわりと立ち上る。静かな秋の夜空には、少し欠けた十三夜の月が優しく輝いていた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。