義母が持ちかけた月見の晩酌
数日かけて、穂香の体調は少しずつ回復していった。頭痛やめまいはほとんど治まり、食欲も戻ってきた。
「穂香さん、今日はずいぶん顔色がいいわね」
夕方、穂香が居間で本を読んでいると、酒蔵の仕事を終えた月江が入ってきた。
「ありがとうございます。おかげさまで、だいぶ楽になりました」
「それはよかった。食欲も戻ってきたみたいだし、安心したわ」
月江は穂香の向かいに腰を下ろした。
「あの、お義母さん。私が休んでいる間、仕事を全部お願いしてしまって……」
「その話はあとにしましょう。それより、今夜は月がきれいに見えそうなのよ」
「月、ですか?」
「ええ。今日は十三夜なの。せっかくだから、夕食のあとに一緒に晩酌でもしない?」
思いがけない誘いに、穂香は目を丸くした。
「晩酌、ですか? 私、お酒は飲めませんけど……」
「もちろん知ってるわよ。穂香さんには、ちょっといい玉露でも淹れるわ。だから、少し付き合ってくれないかしら」
「はい。ぜひ、ご一緒させてください」
「よかった。準備は私がするから、穂香さんはゆっくりしていてね」
月江は穏やかに笑っているが、何か改まった話があるのかもしれない。緊張気味に返事をした穂香をよそに、月江は嬉しそうにうなずき、台所へと向かった。ふと窓の外を見ると、夕暮れの空には、薄い雲がゆっくりと流れていた。
月江が穂香へ伝えたかった本音
夕食を終えた穂香は、月江とともに縁側へ出た。秋の夜風は少し冷たかったが、月江がブランケットを2枚用意してくれていた。小さな盆には徳利と猪口、それから湯飲みが載っている。
「いただきものの玉露なの。せっかくだから、穂香さんにもいいお茶を飲んでもらおうと思って」
「ありがとうございます。なんだか贅沢ですね」
穂香は湯飲みを受け取り、ゆっくりと口をつけた。まろやかな甘みが広がり、自然と肩の力が抜けた。2人はしばらくの間、ぼんやりと空を見上げながら湯飲みと猪口をそれぞれ口に運んだ。やがて月江が穂香に顔を向ける。
「体の具合はどう? もうだいぶよさそうだけど」
「はい。おかげさまで。でも、仕事を休んでばかりで申し訳ありません」
「それなんだけどね。穂香さんが休んでいる間、事務の仕事を久しぶりにやってみて、気づいたことがあるのよ」
穂香は思わず背筋を伸ばした。
「出荷管理表も、取引先との連絡記録も、ずいぶん丁寧にまとめてくれていたのね。注文の変更もすぐに確認できて、本当に助かったわ」
「いえ、そんな……間違いもたくさんありましたし」
「それはそうだけど、普段どれだけ頑張って仕事をしてくれていたのか、私も分かっていなかったの。注文を確認して、電話に出て、出荷の手配をして……実際にやってみると大変よね」
月江の言葉に、穂香は驚いた。失敗したことばかりに気を取られ、普段の仕事ぶりをそんなふうに見てもらえるとは思っていなかったのだ。
