夫の家業を支えるため地方へ移住

初夏の日差しが差し込む広い和室で、穂香は1人黙々と荷解きをしていた。次の段ボールを開けようとしたとき、廊下から夫の雄一が顔をのぞかせた。

「穂香、片付けは進んでる?」

地方にある雄一の実家へ移り住んだのは、数カ月前、義父が脳梗塞で倒れたことがきっかけだ。幸い命は助かったものの、後遺症が残った義父は、現在もリハビリ通院を続けながら自宅で療養している。長年営んできた酒蔵を切り盛りすることが難しくなった義父に代わって、雄一が家業を継ぐことになり、夫婦で相談して穂香も会社を辞めた。新卒から10年続けたエンジニアの仕事だが、特に思い入れもなく、田舎での新生活に抵抗はなかった。

「うん。衣類は全部しまったし、あとは本を並べるだけ」

「重いのは後回しでいいよ。店終わったら俺がやるから」

「ありがとう。でも、いつまでも段ボールが部屋にあるの嫌だから」

穂香は笑いながら文庫本を取り出し、棚に並べた。

「あんまり根詰めるなよ。明日から穂香も店だろ」

「うん、わかってる。これだけやっちゃう」

「じゃあ俺、そろそろ店戻るわ」

翌朝、穂香は義母の月江に案内され、酒蔵の事務所へ向かった。

「まずは注文確認と伝票整理からお願いね。この取引先はメールだけど、こっちは電話で注文が来るの」

「分かりました。取引先ごとに連絡方法を覚えないといけませんね」

穂香は説明を聞きながら、手帳に要点を書き込んだ。

続いて教わったのは、出荷記録の入力。表計算ソフトを開き、注文内容を入力していく。パソコン作業はエンジニア時代から慣れている。穂香は手際よく入力を進め、最後に元の注文書と数字を照らし合わせた。

「あら、もう終わったの? さすが仕事が早いわね」

「こういう作業なら得意です。何年もやっていましたから」

月江に褒められ、穂香は嬉しくなった。