隆人に募る母の違和感

隆人がアルバイトを始めて数日が経ち、日中はよくアルバイトで家を空けるようになった。

旅行代を貯めるだけだから、それほど多くは働かないと思っていたが、隆人は連日シフトを入れていた。

そんなある日、志穂が仕事を終えて帰宅すると、ちょうど出かけようとしている隆人と玄関で鉢合わせた。

「あら、どうしたの? もうすぐご飯だけど?」

「あ、いいよ。俺、友達と食べてくるから」

「え? 遊びに行くの? 今日もバイトをしてたんじゃないの?」

志穂がそう尋ねると隆人は当たり前のようにうなずいた。

「そうだけど。ちなみに明日もバイトだよ」

「だったら今日は家にいてゆっくりしなさいよ。仕事ばっかで大変でしょ?」

隆人は笑って首を横に振った。

「全然大丈夫。仕事と遊びは別だから」

「……あんまり遅くならないようにね。何かあったらお母さんに電話しなさいよ」

「分かった。それじゃ行ってくる」

そう言うと隆人はさっさと出かけていってしまった。

残された志穂はリビングに行き、帰りに寄ったスーパーで買った具材などを冷蔵庫に入れた。本来ならそこから料理を始めるのだが、1人しかいないとなると、やる気が湧かなかった。そのままキッチンを出て、リビングのソファに座りとりあえずテレビを点けた。テレビでは甲子園の中継をやっていた。志穂はぼんやりとテレビを見ながら毎年、隆人がかじりつくように中継を見ていたことや、大学でも野球を続けたいと言っていたことを思い出した。

「もう野球自体に興味なくなったのかな……?」

志穂はぽつりとつぶやいたが、当然誰も答えてはくれなかった。

●最後の夏を終え、遊びやアルバイトに明け暮れるようになった隆人。立ち直りの早さに安堵しながらも、野球から距離を置く息子に志穂は小さな違和感を抱いていた。そんな隆人の胸には、母がまだ気付いていない思いが隠されていた…… 後編【「金なんていくらあっても困らないだろ?」最後の夏に敗れた球児…救急搬送されてもなお働きたがる“異様な執着”】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。