母を戸惑わせた息子の切り替え

最後の公式戦を終えて1週間後、隆人は夏休みに入った。

今までとは違い、野球の練習がなくなったことで隆人は思う存分夏休みを満喫している。

昼近くまで寝るのが当たり前になり、しょっちゅう友人と遊びに出かけたりしていた。

野球部時代には夏休みでも一日中グラウンドにいるのが当たり前だった。だからこそ今までできなかったことを取り戻しているのだろう。

とはいえ、高校3年生の夏である。隆人は大学進学を目指しているので、そろそろ受験勉強を始めてほしいという気持ちも、親としてはないわけではない。ただ夏休みを満喫している隆人を見ていると、もうしばらくは好きに過ごさせてあげてもいいような気分になり、何も言わなかった。

そんなある日の晩、夕食を2人で食べていると隆人が楽しそうに切り出してきた。

「今度さ、部活のやつらと旅行に行くことになった」

「え? 旅行?」

突然の話に驚いていると、隆人は笑って説明を続けた。

「大丈夫。金は自分で稼ぐから。建築現場の日雇いバイトがあるからそこで働くよ」

「別にお金の心配をしてたわけじゃないけど……。こんな暑い時期に建築現場で仕事なんて大丈夫なの?」

志穂が心配を口にすると隆人は声を出して笑った。

「いやいや、このクソ暑い中で俺はずっと走り回ってたんだよ。全然大丈夫だって」

不安はあったが、自分で働くのなら止める理由はない。遊ぶためのお金を自分で用意しようとするのもしっかり者の隆人らしいと志穂は思った。社会勉強としてもいい機会だと思い、志穂は認めることにした。

「無理だけはしないでよ。それと勉強もちゃんとやること。高校3年生だってことは忘れないでね」

「もちろん、分かってるよ」

隆人は歯を見せて笑ってうなずいた。